救国の英雄は、今

 街の広場に建つ、馬に乗って剣を掲げる『救国の乙女』の銅像に会釈する。そのまま広場を通り抜けて大聖堂の裏手に回ると、一際花の多い墓標の前に、アキは佇んだ。

「こんなところに現れて、大丈夫なのか?」

 低い声に、振り向いて微笑む。

 アキの横に立った影、かつては若さのままに剣を振るう部下であったラドは、老齢の騎士団長としての貫禄を纏っていた。対して、自分は。

「『救国の乙女』は、敵の手に落ちて処刑された」

 墓標へと顔を戻し、冷静に言葉を紡ぐ。

「ここにいるのは、ただの少女」

「そうだな」

 アキの素性を知るのは、今ではこの騎士団長のみ。それで、良いのだろう。穏やかな空気を感じながら、アキは横の騎士団長に微笑んでみせた。

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