甘味が欲しい
「疲れた……」
汗ばんだ上着のまま、簡素なベンチにどっかと腰を下ろす。元の世界で読んでいた異世界転生小説ではスローライフが持て囃されていたが、読むのと、実際に畑を耕すのとでは大違い。毎日こんなにくたくたになるのなら、せめて。
「甘味……」
口の端から小さく、本音が漏れる。
この世界には、砂糖らしきものは見当たらない。甘味料代わりにできそうな樹液や果実も、無い。蜂も、雀蜂よりも凶暴な奴しかいない。麦芽から飴を作ろうとしたときは何故か麦酒ができてしまった。
仕方が無い。諦めの溜息と共に、朝の残りであるテーブルの上のパンを手に取る。固いパンを噛み締めて感じる、力の無い甘みに、アキは無意識に首を横に振っていた。
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