この世界は謎だらけ

 この世界は謎すぎる。食事を作っている現在の主人、とおるの貧相な背中を眺めながら首を横に振る。入れてボタンを押すだけで食べ物が温まる機器といい、捻るだけで火が点く器具といい、元の世界では泣く子も黙る『魔導書』であった自分でも何故そのように動くのか分からないものが、この世界には多すぎる。瓦斯や電気やマイクロ波など、この世界の仕組みについて、徹は色々説明してくれたが、それでも。

「僕からすれば『魔導書』の方が謎でしかないけど」

 『魔導書』のぼやきに気付いた徹が、食事が乗った皿をテーブルの上の魔導書の横に置きながら呟く。まあ、どっちもどっち、なのだろう。食事を口に入れる徹を見上げ、魔導書は小さく鼻を鳴らした。

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