彼の手は読めない

 報告書から顔を上げ、窓から侵入してきた凶賊を横目で睨む。

「俺に手枷は無駄だ」

 そう。こいつには、手枷も、最下層の牢獄も無駄。視界の端で揺れる、二つの穴が空いた厚手の木の板に息を吐く。何度捕まえても、こいつは、目を離した隙に影も形も無く消え去ってしまう。

「何故、ここにいる?」

 ゆっくりと、固い椅子から立ち上がる。

「知れたこと」

 虚空から鉄棒を取り出す前に、細いナイフがリオンの左頬を薙いだ。

「これ以上の邪魔は、されたくない」

 こいつの攻撃の手は、読めない。報告書に書かれていた部下達の無惨な結末が脳裡を過る。これ以上、こいつを野放しにはしておけない。消える寸前の影に、リオンは虚空に現れた鉄棒を叩きつけた。

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