古い裁縫箱

 少しだけ派手になった袖に、小さく笑みを漏らす。

 セーターの繕いは、これで大丈夫だろう。次は。少し太めの針を針山に戻すと、ゆうは今度は、鋭さが光る新しめの針に黒糸を通した。昨日買いに行った、「九分丈」だと書いてあったにも拘わらず尤が穿くと裾が床に落ちてしまうズボンの丈を直さなくては。

 いったい何年、この裁縫箱と付き合っているのだろう? 昔のアニメ絵が蓋に描かれた、色褪せたプラスチック製の箱をまじまじと見つめる。小学生の頃から使っている箱だが、その頃から入っていた物はもう、この箱の中には無い。箱だけが、健在。

 おそらく、この箱はこれからも、尤と共にあるのだろう。再び微笑むと、尤はズボンの裾直しに集中した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る