名残
何も無くなった、がらんとした小さな部屋に寒気を覚え、落ち着くために息を吐く。
『彼』はもう、どこにもいない。彼が触れたもの、関わったものは全て消去された。それなのに、……彼の気配が残っている気がするのは、何故だろう?
私も、もう、行かなければ。彼の気配を振り切るように、首を強く横に振って部屋を出る。外に出ると、普段通りの湿っぽい風がアキの全身を包んだ。彼が好きだった、雨が降る前の空気。
「彼のことは、忘れなさい」
『保護者』の言葉が脳裏に響く。
忘れられる、わけがない。首を横に振ったアキの目の前が一瞬だけ暗くなる。しかしすぐに明るくなった空間に、アキは目を瞬かせた。私は、何故、泣いていたのだろうか?
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