運と偶然
白布が敷かれた床の上に転がった二つの賽に、思わず目を瞬かせる。
いかさまも多いと噂のある場末の賭場。賭ける前に観察していた、目の前で何度も振られた賽は間違いなく、特定の目が多く出ている細工された賽。こう賭ければ絶対に勝つ。その予想を嘲笑う賽に、伊織は唇を震わせた。
「今日の賽に、細工は無いよ」
目の前から消えた札に呆然とする伊織の手の中に、先程までは床に転がっていたはずの賽が投げ込まれる。確かに、これは、……普通の賽。
「たまたま、同じ目が多く出ることもあるさ」
伊織の向かいで艶冶に微笑んだ壺振りの、立てられた膝の白さに居心地の悪さを覚える。手の中の賽を投げ捨て、伊織は賭場を後にした。
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