裁縫好きな領主

 因縁のある隣国との国境沿いに位置する小さな辺境伯領の領主、ラドは、気まぐれで、何を考えているのか分からなくなる主人。今日も、国境沿いに不穏な動きがあるというのに、大きめのテーブルの上に布を重ねて一針一針丁寧に縫い止めている。

「よし、できた」

 従者である自分に向かって飛んできたずっしりとした上着を、何とか受け取る。

「鎧の下に着ろ。怪我をされては困るからな」

 次は、集まってくる農民達に着せる揃いの上着の修繕だな。口の端を上げた主人に、口をパクパクさせる。気を遣ってくれるのは、嬉しい。だが、ラド自身の鎧下地は大丈夫なのだろうか? しっかりとした上着を抱えたまま、カイは主人の後から階下の倉庫へと降りた。

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