演じる日々

「一日中、自分じゃない自分を演じるの、辛くない?」

 誰かの声が、耳に響く。

「別に」

 その声に答えたのは、確かに、自分の声だった。

 若い頃は、他人の前で本当の自分をさらけ出すことが怖かった。自分自身を見せないことに罪悪感を覚えたこともある。だが、……自分を出すことで他人に迷惑をかけることも、しっかりと学んだ。この残酷な社会で生きるためには、『自分』を隠し、愛想笑いで『普通の人間』を演じた方がずっと楽。そう割り切れば、今の生活はまんざらでもない。

「それで、良いの?」

 同じ声に、口の端を上げる。

「ずっと、このままでも?」

「ああ」

 我が儘など、とっくの昔に捨て去った。

 今は、心を無くして生きるのみ。

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