花が咲いたら

「花、咲かないね」

 頭上の木々を見上げた小さな影を追うように、日差しを遮る太い枝を見つめる。小さな蕾は見えるが、開く気配はない。

「咲かないと、一年生になれない?」

 地面に目を落とした小さな影の、しょんぼりとした声に、思わず吹き出す。

「咲かなくても、四月になったら一年生になれるよ」

 そう、教えると、小さな影はぱっと顔色を明るくした。

「本当?」

 一年生になったら。歌いながら木の周りを回る小さな影に、肩を竦める。この世界は、……楽しいことばかりではない。それでも。

「友達、たくさんできるかな?」

 駆け寄ってきた小さな影に、全てを隠した微笑みを返す。

 この小さき者に、幸せを。花のない木に、私は小さく、祈った。

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