花が咲いたら

 村外れに、咲くことがない蔓薔薇に覆われた廃墟がある。

 蔓薔薇が花を咲かせた時、廃墟の奥底に眠っている何者かが目を覚ますという、噂と共に。

「それ、本当の、話?」

「震えながらの台詞じゃないだろう」

 弟の背に隠れる双子の兄に、肩を竦める。

 懐から杖を取り出し、習い覚えた呪文を唱えると、廃墟は一瞬にして華やかな色に染まった。

 そのまま、しばらく待つ。だが、……期待していたことは、何も起こらなかった。

「綺麗だね」

 震えていたはずの兄が、横に現れて微笑む。

 この廃墟に潜むという強大な力を解き放ち、兄弟が持っていた権利を奪った親族もろともこの世界を滅ぼしてやろうと、思っていたのに。肩を落とし、弟は兄の腕をそっと掴んだ。

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