君のために作るもの

 肉が少しだけ手に入ったので、小麦粉を水で練る。

 苦みの少ない青物と肉を細かく刻んで混ぜたタネを少しずつ、小麦粉を伸ばして作った皮で包むと、底辺が少しだけ膨らんだ小さな三角形が多量に、章の前に並んだ。

「何これ? 餃子?」

 音も無く帰宅した同居人の顎が、章の左肩に乗る。

「雲呑」

 横のコンロで沸かしている、生姜を効かせた鶏ガラスープに入れて火を通せばできあがり。章の言葉に、同居人の頬が膨れたのが、頬越しに分かった。

「じゃあ、当分お預けだね」

 その言葉を残し、ついと、同居人は章から離れる。

 煮込む必要は無いのだから、すぐにできるのに。しかし呆れを見せることなく、章は、どっかと椅子に腰を下ろした同居人に微笑んだ。





Twitter300字ss お題『雲』

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