影は冥く

 崩れ果てた小屋の下に見えた、欠けの見えない小さな黒い塊を、静かに拾い上げる。震えるアキの唇を映すその円い塊を、アキはただただ見つめた。

 この塊は、政略結婚の一環として遠くの村に嫁ぐことになった姉の為に、アキ自身が作ったもの。鏃に使うものと同じ黒曜石を丹念に磨き、姉の美しい顔が映るようにした、もの。だが。今アキの手の中にある暗い面に映るのは、酷く腫れた目蓋を持つアキの顔だけ。狼の毛皮で作った外套で滑らかな面を何度拭っても、映るものは、変わらない。

 咆哮が、冷え冷えとした空間に響く。

 月の光を反射する凸凹の無い面に、アキの涙が大きな染みを作る。その涙で更に歪んだ、アキ自身の顔に、アキは涙を落とし続けた。





第4回Text-Revolutions内企画『てきれぼ300字企画』(http://300.siestaweb.net/)

お題『鏡』

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