プロローグ
私の名は、ノーマン。
私の住む場所は人間の体内である。
いわゆる司令塔というやつになるのだろう。私の管轄は脳だ。
身体中に指示を出し、体内環境を正常化するのが私の仕事だ。
現在、宿主である人間は、母胎の中におり、へその緒から定期的に栄養が運ばれてくる。
運ばれてくる栄養から不純物を取り除き、全身にエネルギーを供給するのは、タンデンという名の私の部下だ。
「ノーマン! こちらタンデン! 例のアレ、なんだ黒いコブ!」
「タンデンさん落ち着いてください。ガングリオンみたいなやつですか?」
「そう、それだ! 栄養にひっついてるやつ」
「それがどうしました?」
「けっこう溜まってきてな、邪魔なんだが、なんとかならんか?」
「わかりました、不要物を体外に排出できるようにしましょう」
部下という呼び方は適切ではないな。仲間といった方がしっくりくる。立場的に上下関係らしきものはあるが、宿主を守ることこそが重要だ。
宿主が外部から受ける感覚は、私だけでは情報量が多すぎて一度に処理しきれないので、担当わけがされている。
まず触覚部分だが、刀を扱うことに長けた男、右近が右半身担当。銃を扱うことに長けた女、左近が左半身を担当している。
ふたりとも鋭い感覚の持ち主で身体能力も高い。ウイルス退治の際にも活躍してくれることと思う。
「見てくれノーマン、笑える変顔が完成したんだ」
「右近、自分で笑えるだなんて、そんなハードルを上げて大丈夫か?」
「大丈夫だ、問題ない。見れ!」
「……残念です」
「キャハハハ! 右近の顔! おっかしー!」
「左近には受けたようだ。良かったな」
「ノーマンは鉄面皮すぎるぞ、もっと笑え。笑いは健康の秘訣だぞ」
大丈夫。普段はこんなユルい奴らだが、いざとなればきっと活躍してくれる。たぶん。
次に聴覚。ドラゴン・ジャックという名の、リズミカルに韻を踏みながら話す変わった男だ。音楽への愛情が強く、意外なことを知っている。
「そう、俺はドラゴン・ジャック」
彼のことは、おいおい紹介するとして、
「ちょちょちょ、ちょまてよ! いま紹介しろよ」
「いや、普通に喋ってくれないと面倒くさいんで」
「わかったわかった。普通に喋る。さっき聞いた情報を教える。この宿主は、性別男。医者が言ってた間違いない」
「んー大丈夫? 韻踏んでない?」
「多少のクセは、簡単に抜けない。悪気はないから許してちょうだい」
というわけで性別が判明した。
現状では、外部からの情報を入手する手段は、ドラゴン・ジャックに頼るほかない。私も実際に聞いてみたが、何を言っているか言葉が理解できない。
彼はそれを音の高低やリズムで、なんとなく判別できるのだという。
「みんな聞いてくれ! 医者が性別を母胎に告げたそうだ。おそらく出産が近い。各自マニュアルに目を通して、準備をしておいてくれ」
『りょーかい!』
出産マニュアルには、出産時に母胎の動きにあわせるコツや、へその緒に手足を絡ませない方法から、外の世界で上手に酸素を取り入れる方法や、初歩的な細菌の撃退術などが書かれている。
これは安産祈願のお守りがあったおかげで、手に入れることが出来た。私はここに来るまでの記憶が曖昧なので、圧倒的に知識が足りない。
マニュアルがなかったらと考えると本当にゾッとする。
これから味覚や嗅覚の担当者もあらわれるだろうし、外の世界は危険がいっぱいだ。
最後まで宿主を守りきれるように、油断せず、気を引き締めて臨まねばならない。
ノーマンの住むところ 藍月隼人 @bluemoon
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