ノーマライズ
敵の攻撃を受けて地面に伏したものたちは、身体が麻痺して動けはしないが、出血もなければ、呼吸をしていて生きてはいる。
時折うめいたり、手足がわずかに動くのは、懸命に戦線復帰を試みているからだと思う。
少なくとも、死ぬことはない。
そう判断した私は、雨の味を確認せずにはいられなかった。
そして、初めてタンデンさんと会ったときに食べた栄養と、同一のものであると解明した。
つまり、この雨は栄養でできている。
落ち葉からこの敵を生み出したのは、スズキで間違いないだろう。ということは、この雨もそうだろう。
右近と左近の時のように、スズキを仕留めれば栄養の供給が絶たれるかもしれない。
そんな思いが頭をかすめた。
スズキを見ると静かに笑みを携えている。勝てそうではある。
だが、そう見えてもここの管理者。簡単にはいかないだろう。さらに言えば、この試練において、スズキと戦うというのは、違う気がする。
別の手段があるはずだ。
この場所が、宿主の体内と同じ環境だと仮定するならば、聴覚を司るドラゴン・ジャックに頼まれて体内環境を変えたときみたいに、できることがあるかもしれない。
「キシャアアアア!」
敵が奇声を上げて襲いかかってくる。
私は手のひらを地面に向けて、落ち着いて意識を集中させると、土で出来た巨大な手を出現させて、そいつを掴んだ。
「よし、うまくいった!」
「そうか! ノーマライズ出来るのか! みんな! ノーマライズだ!」
それを見た1人が叫んだ。そこからはあっという間だった。
私以外のほとんどの者が、何もない空間から武器や炎を出現させて敵を一掃した。
「ノーマライズできることに気付いてくれたあんたのおかげだ。俺はノリヲ。あんたはなんて名だ?」
すべての敵を落ち葉に戻した後、ひたいにハチマキをした男が言った。
「私はノーマンと申します。ノーマライズって何ですか?」
「ノーマライズはノーマライズだろ? 知らないのか?」
「ノーマライズは正常化って意味よ。体内環境を正常化するために使う能力のことをアタシたちはノーマライズって呼んでるの」
首を傾げるノリヲの背後から助け船が飛んでくる。
「へぇ~、そういう意味なんだ。知らなかったな。……だとよ、ミサキは昔から知識だけはあるんだ」
「ちょっと! だけは余計でしょ!」
ノリヲが感心したように言ってから私に向き直って笑顔を見せた。ミサキと呼ばれている女性が怒っていることは気にならないようだ。
「みなさん、お疲れさまでした。これで訓練はおしまいです。迅速な状況判断と見事なノーマライズでした。自分に何が足りなかったか、各自思い返して、足りないものを補うべく情報を共有しあってください。ミコトさんが食事を用意してくださっていますので、良かったら食べていってください」
スズキはそう説明すると深々とお辞儀をしてから姿を消した。
「くいもんあるってよ! 行こうぜ」
私には聞きたいことがたくさんある。ノリヲが目を輝かせて誘ってくるのを断る理由は無かった。
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