メロディー


聞こえてくるのは宿主の心音か。部屋全体に一定のリズムが響いている。


耳を司る目の前の男は、ドレッドヘアというのか、チリチリになった縮れ毛を寄り合わせたような髪型で、よく焼けた色黒の肌にサングラスをかけており、ダボッとした服装をしていた。


価値観の違う相手というだけで、どうして身構えてしまうのか。話してみれば意外と良い奴かもしれない。


「初めまして、私は脳を担当しているノーマンというものです」


私は、丁寧に挨拶をした。


相手がどんな風貌をしていようと、これから長いつき合いになるかもしれない。


右近の話が本当なら、ここから逃げることはできないし、宿主を守る使命を無責任に放り投げることは、私の性格上できそうになかった。


とすれば、やれるだけのことをやるしかないのだ。


「おー、オメーが今回の責任者か。そう、俺が聴覚の適任者だ。よろしくどうぞ初めまして、最高の音をお届けします」


「えっと……ふつうに話せます?」


「なんだよ、ノリ悪いな。そんなんで大丈夫なんかよ」


ノリが良ければ大丈夫。という彼の価値観は、私にとって新鮮だった。悪い意味で。


だが、外部の情報を得るために彼の協力は必要不可欠である。


「いい場所ですね、音の広がりが感じられて、アレですね、いいバイブスでてる」


精一杯彼に寄せたコメントである。いまの私にはこれが限界だ。


「おっ! わかるぅ? これほどの環境整えるの苦労したんだぜ? マジあがるだろ? ちょっと外の音とか聞いてくか?」


何があがるのか理解しがたいが、良い印象を与えたようだ。彼は上機嫌でステージ奥の扉を開くと、私に手招きをした。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る