導きの化身

追いつめられたときこそ、平常心を保つことが大切である。


あわてればあわてるほど、本来できるはずのこともできなくなる。


右近と左近のふたりが怒りをぶつけてくるのが見えて、私は不敵に笑ってみせた。


そして、聞き取れないほどの声量に抑えてつぶやく。


「右近待って! コイツなにか言ってる!」


わずかに先行していた右近に向かって、左近があわてた様子で忠告した。


「そんなん知るかよ! ジャマする奴はぶっとばす!」


「この状況で笑っていられるなんて、何か企んでるに決まってる! あんた何? なんて言ったの?」


未知というものは恐怖でもある。


初めて渡る橋に立て札があった場合、多くは立て札を読み、危険を回避するための情報を得ようとするものだ。


「本当にいいのか? と言ったんだ」


聞く耳を持ったふたりに改めて私は伝えた。


先ほどまで突撃しようとしていたふたりの勢いは止まり、私から発せられるヒントを聞き逃さぬよう集中しているのがわかる。


「いいのかって……なにがだよ」


「刀が消えて、弾が出なくなった。この先もそのままでいいのか? と聞いたんだよ」


完全に主導権を握った私は、右近の問いに大きなしぐさとゆっくりした口調で答えた。


「あんた何者なの?」


それはこっちが聞きたいところであったが、せっかく、ただ者ではないという印象を与えたのだから、それを壊すわけにはいかない。


「ふふふ。私は、ノーマンだ。話せば長くなる。まあ座れ」


ハッタリがそう長く続けられるとは思っていない。だがいまはまだ続けるしかなかった。


膝がふるえるのを隠すため、私は腰を下ろして気づかれぬように手汗をぬぐった。


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