開眼


見たわけでもないのに、青年が背後で刀を構えていることがなぜわかったのか。


音で推測したはずだが、私には彼が居合い斬りをするかの如く重心を低くして、腰の刀に手を添える所作まで感じとることが出来た。


さらに、前方に長く続く通路の奥で狙撃銃を構える女性がいることにも気付き、それが私の背後の青年を狙っていることさえわかった。


もっと言えば、このとき別の部屋にいるはずのタンデンが、周囲に誰もいないことを良いことに大きな屁をぶっ放したことすら知り得た。正直知りたくもなかったが……


生物の進化の過程に生命の危機が引き金となることがあると証明されたとて、私にできることは身じろぎしないことだった。


まもなく女性スナイパーの銃口からオレンジに光る弾が発射されると、侍は開眼してオレンジ色の刀身を抜いた。


銃弾がスパッと斬られ、まっぷたつに分かれて後方に飛んでいくと、女性は舌打ちしながら別の銃を構えて間合いを詰めてくる。


「右近! くたばりやがれッ!」


およそ女性らしからぬ乱暴なセリフと共に光の弾を乱射するが、右近と呼ばれた侍は私の横を通り過ぎると、素早い動きで壁を駆け上がっていった。


「ウルサイ左近ッ! ばーかばーか!」


そのまま天井まで駆け抜けて、右近はほとんど逆さまになりながら、それこそ子供のように幼稚な悪態を吐いて左近に飛びかかった。


私は唖然としてしまい、行方を見守ることしかできなかった。

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