体内環境正常化

時計どころか太陽もない、この世界では時間を知る方法がない。


それでも無残に時は過ぎていく。


タンデンはオレンジ色の球体をひとつ手に取ると、それを差し出してきた。


「食ってみろ」


「食えるんですか?」


私は嗅覚を集中させるが、匂いは感じ取れない。


ひとかじりしてみる。


球体は果実のように柔らかく、舌の上で染み込むように溶けた。惜しいことに味がない。


「お、おお!」


飲み込むと、たちまち活力がみなぎるのを感じて、思わず声がでた。あたたかい光に身体が包まれたような感覚と共に、すっきりと目が冴える。


「なんですかこれは……すごいですね」


「だろう? 味はウマかないがな。ワシは、栄養じゃないかと考えとる」


「栄養……ですか?」


「ワシは、ここが何らかの生物の体内だと考えとる。そして、ワシの使命は、ここで栄養を全身に送り届けること。そんな気がしとる」


タンデンは遠くを見据えて使命感に満ちた表情をしていた。


自己陶酔しているようではあるが、こういった精神状態の者は良い仕事をする。


「そう……ですか。貴重なご意見をありがとうございます。では忙しいでしょうから私はこれで」


私は完全に信じたわけではなかった。ちょっとアブナいヤツの可能性も視野に入れた。


どんなことも、ありえないことはない。可能性は無限大だ。ただ、私は慎重に判断していきたい。取り返しのつかないことが起きてからでは遅いから。


私は、ジャマにならないようにタンデンから離れると、作業風景を遠目に眺めながら壁によりかかった。


いつまでもここにいても仕方がない。ここはタンデンの場所なのだ。


最悪の場合、オレンジ色の栄養と共にベルトコンベアに流されて別の場所へ移動する方法がある。


あまり安全な移動とは考えにくいので、避けたいが……


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