遭遇


赤ちゃんのほっぺに近い柔らかなイスに腰掛けると、眠りに落ちるかのようにストンと、意識だけが階下に移動した。


壁や足下は先ほどまでいた場所と同じだが、そこにはベルトコンベアのような装置があり、オレンジ色に光り輝く球体が運ばれていた。


ヘアアイロンみたいな背の高い装置が、高い天井を突き抜けていて、球体をどこかへ送り出しているようだった。


「オイ! アンタそこで何してる!」


ガラガラしたしゃがれ声がして意識を向けると、ずんぐりした男が腕組みをして立っていた。


「すみません。迷い込んでしまったみたいで、ここはどこです?」


私の質問に対して、男は腕組みをしたままアゴヒゲに手をやって、疑うような目で機嫌悪そうに答えた。


「ここはどこかだと? 見てわからんか、ワシの仕事場だ! ワシはワシのやるべき事をやる。アンタもアンタのやるべき事をやれ。わかったらジャマだから持ち場に戻れ!」


「ちょ、ちょっと待ってください!」


男が怒鳴りながらツバを浴びせるだけ浴びせて立ち去ろうとするので、少なくとも私よりは自分のやるべき事を知っているこの男を逃すわけに行かないと思い、自分の見えない手で男のウデをつかんで引き止めた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る