普遍の楽
「今日にしようぜ」
昼休みに入るなり、シンイチがそんなことを言い出した。
「なんの話?」
「前に話しただろ、ユウの復帰祝いに遊び倒そうって」
「あー、そういえばそんな話してたな」
随分時間が経っていたから忘れていた。
「復帰からもうだいぶ経ってますがそれは」
「すべてはマサオのせいだ」
「ウォイ!」
その言葉にマサオ本人が弁解する。
「俺のせいだけじゃねーだろ、お前らだって何かと予定あるわバイトあるわで…」
「つまり全員の予定がなかなか合わなかったわけね」
僕がそう言うと、
「何他人事みたいに言ってんだ!」
パコン、とマサオに殴られた。
「おめーも今日は無理明日は無理ってやたら断りやがってよ」
「あー…ごめん」
沙夜のいる日は早く帰りたくて仕方ないんだ…。
「お前なんの予定があんねん。バイトだってしてねーだろ」
「色々あるのよ、僕にもね」
「まあそれはいい。で、今日はどうなんだ」
「大丈夫でっす」
「よぉし!」
シンイチが と、 の方を向く。
「お前らも今日大丈夫だろ?」
「もち」
「オッケー」
「じゃあ今日講義終わったらマサオの家で」
「え、ちょ、おれんちかよ!」
「お前んち以外にどこ行くんだよ!」
「シンイチの家のが広いだろ」
「お前んちのがちけぇだろ」
「多数決!」
マサオが言う。
「マサオんちで」
「右に同じ」
「二人に同じ」
「近いって素晴らしい」
マサオ以外が言う。
「満場一致ですね」
「最後ただの感想だろ!?」
確かに。
まあ言ったの僕なんだけど。
相変わらず中身のない会話を、僕らは繰り広げる。それが楽しいというのだから、案外人生なんて単純なものなのかも。
今日は、沙夜のいない日だ。だから僕はみんなの誘いに肯定を返した。先にも言った通り、沙夜がいたのなら断っていたので、少なくとも今の僕の中では、みんなよりも沙夜の存在の方が大きかった。まあ、話をしていて一番笑えるのは、こいつらなんだけどね。
「いやぁ、ひっさびさに遊び倒せるなこれは」
「今日3講までだしな」
「酒買ってこうぜ」
「夕食鍋にしようぜ、鍋」
「俺金ないから宿泊費としてお前ら全部出せな」
「は?」
「え?」
「なめんなカス」
「俺に当たり強すぎない!?」
相変わらずいじられ役のマサオ。
それとも愛され役?
「いや、金は今回僕が全部出すよ。迷惑かけたからね」
「神かお前」
「ユウに払わせるとかサイテーだなマサオ、見直したわ」
「いや見直してどうする。自分が払いたくないからって」
「まあ僕、今金持ちだし?」
「お前がそれをネタにする!?こっちは言わないようにしてんのに!」
「よしもうユウの奢りけってーい」
「じゃあどうせなら最高級の肉買ってくか」
「食いたいならいいけどさ…」
「だから神かよお前」
「全部今日で僕が払った分巻き上げてやるよ」
「お、やる気満々だねぇ」
「しばらく打ってなかったからなぁ、マジ楽しみだわ」
僕も、楽しみだった。
沙夜のいない日を、こんな風に楽しめるなんて。多分みんながいなけりゃ、絶対にありえないことだった。
「もう講義サボって今から行く?」
「お前………」
そんな提案をしたのはマサオ。
一番単位がヤバいやつがそんなことを言い放った。
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