1/2の笑顔

あおい君、おはようございます。フィルちゃんもおはようございます」


「ワン!」


 そう、その一人と一匹というのは、フィルと、その飼い主の葵君だった。


「…おはよう、朝早いんだね」


「フィルの散歩がありますから。優人さんと沙夜さんこそ」


「沙夜はともかく、僕はたまたま早くに目が覚めただけだよ。毎日この時間に起きてるのかい?」


「ええ、もう日課ですから」


「偉いなぁ、頭が上がらないよ」


「旦那様は案外お寝坊さんですからね」


「言わんでいい」


 僕は基本寝坊はしない。


 最近は少し………事情があるからなんだ。


 それを、言ったりはしないけど。


「この間は本当にありがとうございました。おかげでフィルが助かりました」


 彼はそう言いながら深々と頭を下げる。


「もういいって。そんな何回も頭さげらせたらこっちが恐縮しちゃうよ」


「そう、ですね、すみません」


「お礼を言われるようなことは何もしていない、ですよね、旦那様」


「まあ、ね」


 フィルを助けた記憶は。


 僕には、ないけど。


「お二人とも本当にとても立派な方で…憧れてしまいます」


「どっちかっていうと立派なのは君の方なんだが…」


 本当に小学生か、この子。


「もっと年相応の言葉遣いとか、していいんだぞ?そんな畏まらなくたって」


「いえ、目上の人と話すなら当然ですから」


「できた子だよ本当に」


 子供らしくなくて、こっちが戸惑ってしまう。


「君くらいの歳ならもっと気楽に年上と接していいと思うけどねぇ。同い年のかずき君なんてもっと…………あ」


「…………」


「…………」


 …………やってしまった。完全に失言だった。


 僕の中では昨日、かずき君と遊んだ記憶があるのだが、この世界は違う。


 この世界に、かずき君はいない。


 それを、忘れていた。


 いや。


 分からなく、なっていた。


 どっちがどっちで、どっちに何があるのか。


「ごめん、余計なことを言ったよ。葵君は彼と、仲がよかったのかな。だとしたら本当に…」


「いえ、」


 と、葵君は僕の言葉を遮るように言う。


「全然、そんなことないですよ。だから気にしないでください」


「…そうか。だけどそれは、君が僕に気を遣ってくれているんじゃないか?」


「そんなことないです。本当のことです。僕は別に、斎藤くんとは仲がよくなかったですから」


「……」


 確かにあの日。あの、大雨が降った日。彼は、かずき君たちと一緒にはいなかった。村の子供たちが5,6人集まって遊んでいたというのに、彼は一人でいた。


 まあ、小さな村だからって、みんな知り合いというわけでもないだろうけど。


「むしろ、」


「…………むしろ?」


「……………………………………」

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