不穏な表情
いなかった。
沙夜が、いなかった。
昨日いなくて、一昨日はいて。その前はいなくて、さらにその前はいた。
だから僕は、今日はいてくれると思っていた。彼女は一日おきに僕の前に現れていた。逆に言えば、彼女がいないのも一日おきだった。
だから、今日はいてくれるだろうと思っていた。何の根拠も論証もないけれど、勝手にそう思い込んでいた。だけど起きて、台所に向かってみたものの、彼女はそこにいなかった。
ああ。
一体どうすれば、沙夜に会えるのだろう。
どうすれば、ずっと沙夜といられるのだろう。
これは一体、何だというのだろう。
必要以上に期待を抱いて起きたせいか、感じる絶望感も甚だ大きい。もしかするともう、彼女は現れないかもしれない。そんな不安が、絶望感をより一層煽り立てる。
しかし、いないと思っていた矢先、玄関の戸が開く音がした。もしかして・・・と思って、僕は慌てて玄関へと向かった。
「・・・・・あ、旦那様・・・。・・・・・おはようございます。もうお目覚めになられたのですね。申し訳ございません、すぐに朝食のご用意をいたします」
「・・・・・沙夜」
まさかとは思ったが、玄関の戸を開けたのは沙夜だった。
「沙夜、どこに行ってたの?」
「先日お買い物に出かけた時、綾瀬さんという方と仲良くなりまして。お家が農家だそうで、お野菜を分けてくださるとのことでしたので受け取りに参っておりました」
「・・・・・」
確かに彼女は手に袋を持っていて、その中に色々な野菜が入っていた。どうやら、完全に早とちりだったようだ。よくよく考えてみれば台所だけ調べて、沙夜の部屋を調べてなかった。冷静になれば沙夜のいる痕跡に気付けたはずなのだが、気が動転していたせいか全く気付かなかった。
「どうしても今朝の食卓に新鮮なお野菜のサラダを並べたいと思いまして・・・。こんなにお早い時間にお目覚めになるとは思っておりませんでしたので、朝食のご用意を後回しにしてしまいました。申し訳ございません、旦那様」
「・・・いや、全然構わないよ。用意してもらってる身だから、ね。ゆっくり作ってくれていいから」
「ありがとうございます。では直ちに作り始めますね」
そう言って彼女は台所の方へとそそくさと歩いていった。沙夜がいてくれたことに安堵した僕は、改めて沙夜がいるということを頭の中で認識し、理解してから、やっと台所へと戻った。
・・・・・。
玄関に入ってきた時の沙夜の表情がなんとなく悲しそうに思えたのは、僕の気のせいだろうか。
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