絶句する後悔と
ザァァァァァと、水が流れる。雨ではなかった。雨よりずっと、あたたかい。だけどそのあたたかい水に打たれても、心臓は冷え切ったままだった。
「・・・・・」
何をするわけでもなく、その水にあたり続ける。家に帰ってきてから、ずっと。兎に角洗い流したかった。この思いを、この感情を。
ダン、と壁に手を叩きつける。ダン、ダン、と何度も何度も。叩き付けた手の痛みも、流木で切った左腕の痛みも、今は感じなかった。噛み千切りそうなほどに唇を噛み締め、全身に血が溢れそうになるくらいの力を込める。怒りと、後悔と、それ以外の何かを。全て吐き出すかのように、力の限りを尽くして壁を叩き続けた。
あの時。
あの時僕が犬を連れて飼い主を探していれば、こんなことにはならなかったのに。どうして、どうしてそうしなかった。そうすれば犬は死ぬことも、あの子が泣くこともなかったのに。どうして。
呪う、呪う、呪う。自分のことを。自分の行動を。僕ならどうにかできた。できていた。なのに、なのになのになのに。
なのに。
どうして。
僕は。
一体僕は、何をしていた?
「・・・・・・っ!!!」
頭を叩きつける。予想以上のゴッ、という鈍い音が響いた。最も、その程度で気が済むのなら最初からこんな、自分を痛めつけるような真似はしていない。
足りない。
足りない、全然。
自責の念は、この程度では消えやしない。
死ねば。
僕が死ねば、消えるだろうか。
僕が死ねば、許されるだろうか。
いつまでも、いつまでも。
どこまでも。
僕は狂った表情で、自分の体を、痛め続けた―――。
バスルームから出ると、そのまま自分の部屋の布団に倒れこんだ。
もう、何もしたくない。
ただそれだけだった。何もせず、何も考えず、寝てしまいたい。忘れてしまいたい。今日あったことの全てを。
かずき君を助けたときの充足感はとうの昔に消え、助けられたはずの命を助けられなかったことを、いつまでも悔やみ続けた。
「・・・・・沙夜」
不意に、彼女の顔が浮かんだ。声を出して彼女の名前を呼んだのは多分、助けてほしかったからだろう。
助けてほしかった。
この僕の胸中を吐き出せる、誰かがほしかった。
聞いてくれる、誰かがいてほしかった。
優しく僕の話を聞いて、そして。
僕は悪くないと、言ってほしかった。
・・・・・。
明日は。
明日は、いてくれるだろうか。
彼女は。
沙夜は。
きっと、いてくれる。
そして、僕の話を聞いてくれる。
そう願いながら僕は。
悪夢から目覚めるように、眠りに落ちていった。
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