どうにもならない
二時を回った。
だというのに、荷物の整理が終わっていない。午前中に終わらせて、散歩に行くはずだったのに。
沙夜と、行くはずだったのに。
引越し業者の人が家の中まで荷物を運んでくれたのだが「後は自分でやる」と言って帰ってもらった。玄関に並んだ家具やダンボールの数々を、動かす気にもなれず、ただぼーっと眺めていた。そうしてもう、何時間経っただろう。
「・・・邪魔だなぁ」
眺めるのに飽きたのか、僕はそう呟いた。そして、一つのダンボールの風を開け中を漁る。
そのダンボールは、「大事なもの用」としてまとめておいたダンボールだったようで、その名の通り、僕が大切にしていたものが入っていた。
それは、子供の頃に一人で作ったプラモデルだったり、友達から貰ったオルゴールだったり、お気に入りの置時計だったり。人によっては、大したものではないように思うかもしれない。だけどその中には確かに、僕の思い出が詰まっていた。
その「大事なもの」の中の一つに、トロフィーがあった。高校三年生の時、水泳の大会で優勝して貰ったものだ。あの時は嬉しかったなぁ、お父さんもお母さんも喜んでくれたっけ。そういえば高校卒業してからしばらく泳いでないなぁ。今度、どこかに泳ぎに行こうかな。
僕はそのトロフィーを持って自分の部屋に戻った。そしてそれを、箪笥の上に置く。何となくそれだけで、この部屋が自分の部屋であるという主張が強くなった気がした。
「・・・出かけるか」
何をする気にもならない僕は、荷物の整理をほったらかして外に出かけることにした。
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