相変わらずの馬鹿共

 沙夜の言うところの「見送り」は、玄関先までのことではなく駅までのことだったようで、僕は沙夜に見送られる形で電車に乗り込んだ。僕は玄関先まででいいと言ったのが「昨日も同じようにお見送りさせていただいたではありませんか」と、彼女は口にした。駅までの道のりを歩く最中も色々と話をしたが、どこか微妙に話がかみ合わなかった。これは一体どうしたことだろう。


 どうしたことだろう、とは言うがしかし、僕はあまり深く考えていなかった。沙夜がいなくなった時はこれでもかというほどに悩んでいたのだが、今はただ沙夜ともう一度会えたことが嬉しくて、何も考えられなかった。移動中も、大学に着いてからも、講義を受けている最中も。帰ったら家で待っててくれる人がいると思うと嬉しくてたまらなかった。同時に、帰ったらまた沙夜がいなくなってるんじゃないかという不安にも駆られた。結局昨日と同じく、全く身にならない講義を受けて帰ることになりそうだ。


 今、僕の身に起こっていることが夢でないならば、一体どんなことが考えられるだろう。まだ僕が夢を見ているという可能性は捨てきれないが、もしそうならそろそろ目を覚ましてもいい頃だろう。夢の中では間に合ったのに、現実では遅刻するとか勘弁願いたい。


「今日俺ん家集まってゲームしねぇ?」


 昼休み、飯を食べながらそう言うのは野郎ども二号、明石。


「悪い、俺今日カノジョと約束あるんだわ!」


 そう言うのは野郎ども三号、正木。


 猫みたいなカノジョがいるあいつである。


「はー?お前やっとユウが大学来たってのに女と遊ぶのかよ。明日休みなんだし今日ぐらい集まって遊ぼうぜ」


「なら昨日集まればよかったじゃん。何でお前昨日大学来なかったのよ」


「いや午後から来ようと思ったんだよ?だけど一講サボって二度寝したら、四時になってた」


「「馬鹿すぎる」」


 僕を含め全員が口を揃えて言う。昨日講義で会ったとはいえちゃんと話をする時間が取れなかったので、今日はこうしてみんなで昼食を取っていた。今日は、とは言うが別にいつも一緒に食べている。


「まあ昨日は俺もバイトだったしな。今日なら集まれるぞ」


 そう言ってフォローに入るのは心優しき野郎ども四号、鹿内。この四人に僕が加わり見事、野郎ども戦隊の完成である。


「シンイチは来れるっしょ?」


「問題なし」


「じゃあマサオ(正木のことである)抜きで集まるか」


「ちょっ」


「あー、悪いんだけど肝心の僕が行けないのよね」


「あ、そうなの?何か用事?」


「まあちょっとね。今度にしてもらっていい?悪いね、僕のために言ってくれたのに」


「ホントだわもう萎えるわー」


「だからごめんて」


「まあまあ、どうせならマサオも来れる時にしたいしいいんじゃない?」


「ま、そうだな。んじゃ保留ってことで」


「うぃー」


「あいー」


「えーい」


 気の抜けた返事をして、僕らは次の講義に合わせて解散した。


 いつも通り。


 この会話も、この雰囲気も。


 沙夜がいるというのに、それでも、この日常は変わらなかった。


 夢でも何でもない、本当にただの、どうでもいい日常が。


 夢だとはこれっぽっちも感じさせない現実が。


 そこにはあった。

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