愚者の結論

 朝食兼昼食を食べ終わって。僕は次の講義が始まるまでの空いた時間で水瀬教授の講義のレポートを書いていた。真一はサークルに用があるとかで、飯を食べたら行ってしまった。なので全く内容は理解できていないが、自力でレポートをつくるしかなかった。別に友達がいる時にやればいいだけなのだが、暇な時間を有効活用するのが僕のポリシーである。


「・・・はぁ」


 しかし、そんなポリシーに反して、手は全く進まなかった。目の前のパソコンのモニターには白紙のページが広がるばかりだ。内容が理解できないから進まない、というわけではなく、やはり一人になると沙夜のことばかり考えてしまう。一度考えたことをまた考えて、同じ結論に至ってはまた考えて。堂々巡りを延々と繰り返していた。家に帰ったら実はいました、みたいな都合のいい展開ばかりを妄想しては、馬鹿馬鹿しいとそれを一蹴する。一蹴した妄想がまた一周してきて、今度はその妄想を希う。


 次第に、これほどまでに僕の頭の中を席巻せしめる沙夜に憤りすら覚えてくる。あまりに自分勝手な怒りであるが、自分勝手と言うなら沙夜も大概だ。突然僕の前に現れて、今度は突然消えて。一体何のつもりだというんだ。


「・・・・・結局、全部夢だったのかなぁ」


 考えが何週したところで、どうやっても最終的にはそういう結論に辿り着いてしまう。この辺りが無知な自分の限界なのだと悟る。多分頭のいい人なら、こういった不可思議な現象を、自分の持つ武器でどうにか解明しようとするだろう。


 数学者なら数式の中に。


 科学者なら実験の中に。


 哲学者なら思想の中に。


 文学者なら小説の中に。


 それぞれ答えを探そうとするのだろう。それができないから結局、凡人は自分の身に起きた不可思議を「気のせいだ」の一言で終わらせてしまう。不思議なことが起こってほしいと、非日常に足を踏み入れたいと思っているのに、いざそういうことが起こると信じられないというのだから、全く。


「・・・間抜けだな、僕も」


 夢。


 夢だったんだ。


 もう、それでいい。凡人の僕には、そういう結論しか出せない。


「・・・今度でいいか」


 名前とタイトルだけが書かれたレポート。それを、右上の×印を押して消そうとする。すると「保存しますか」の文字が浮かび上がった。


「いいえ」を押して、僕はパソコンを閉じた。

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