久しぶりの日常
「お前ずっと一人で飯食ってたんだろ?こうして誰かと飯食うの、久しぶりなんじゃねーの?」
食堂の席に着いたところで、いきなりそんなことを聞いてきた。瞬間、頭に沙夜の姿がちらついた。
「久しぶり・・・ってわけでもないんだよね、実は」
「あ?何?誰かと飯食いにとか行ってたの?」
「ちょっと女の子の幽霊と一緒に食事をね」
「はあ?あ、さっきお前、教授と幽霊がどうとか言ってたよな?どういう意味だ?」
「それが僕にもさっぱり」
「何言ってんだお前」
頼んだカツカレーを口に運ぶ。ここのカツカレーはめちゃくちゃ美味しかった気がするのだが、ここ数ヶ月の間で味が変わったのだろうか、さほど美味しいと感じなかった。
・・・いや。
変わったのは、僕の舌の方か。どうやら沙夜の料理を食べて、舌が肥えてしまったらしい。現実のことかも分からない料理の味が舌に残っているというのは、笑えないほどに滑稽な話だ。
「で?もう引越し済ませたんだろ?どうだ、新しい家は」
「なかなか快適だよ。一人で暮らすにはもったいないくらいの広さで、長閑で、自然豊かで、文句のつけどころが交通の便が悪いことくらい」
「へぇ、そりゃいいな」
「あとお店がそんなにない」
「あるじゃねーか他にも文句のつけどころが」
「まあ悪くないよ。ホント引っ越して正解だった」
「今度遊びに行ってもいいか?」
「もちろん」
「でもそんだけ広いと掃除とか大変じゃねーか?」
「それはやってくれる人が・・・」
「え?」
「・・・・・・・・・・・いたらいいな」
「夢見んなよ」
「・・・・・・・」
・・・・・。
夢見んな、か。
全くだ。
「そっちは何か変わったことなかった?誰かが留年したとか」
「だから全員大丈夫だったって言ってんだろ!あー、でもあるぜ、一つ。重大ニュースが」
「へえ、何?」
「マサオにカノジョができた」
「・・・それが重大ニュースかよ。半年振り七回目の交際くらいじゃない?」
「お前がいない間に付き合って別れてを一セットこなしてるからひと月振り八回目だな」
「歴戦の甲子園出場校だな」
「いや、でも本人曰く『今度は上手くいきそう』だってよ」
「その台詞も常連じゃねーか」
「なんかさ、今度のカノジョは猫みたいで可愛いんだってよ」
「・・・・・・・・・・猫」
「そ。性格とか仕草とかがめっちゃ猫みたいで『猫耳とかつけたら間違いなく猫だ』とか言うんだぜ。どう思う?」
「・・・・・笑っちゃうわ」
「だろ?でもいいよなぁ、俺も猫みたいなカノジョほしーわぁ。お前はどうよ?」
「え、何が」
「猫みたいなカノジョ、欲しくない?」
「・・・・・そうだなぁ」
・・・。
・・・・・。
・・・・・・・。
「猫と、付き合えないかなぁ」
「いや猫そのものの話はしてねーよ」
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