第61話 カリニ村 7

 トウヤとツチミカドは真夜中に火の番と見張りをしながらモンスターについて話している。それも人間の知らないような魔王サイドの知識も含まれた内容で。


「ダンジョンは魔力が豊富だから食事は不要。自然では魔力の補給が十分に出来ないから他を捕食し魔力を得ると。モンスターが人を襲う理由はわかったけどさ、だったらモンスターを食べた方がいいんじゃないの? モンスターの方が持っている魔力量は多いんだからさ」


 モンスターが存在し続けるために魔力が必用で、その魔力を補給するために人間や動物を襲うと言うのならば、別のモンスターを倒した方が効率がいいのではないかと思うトウヤ。


「同じエリアに住むモンスターは基本的に同じ魔王の配下ですからね、仲間内で殺し合う事はしないでしょう」

「そう言えば、モンスターはどのタイミングで魔王の配下になるの?」


 ダンジョンのモンスターはダンジョンマスターが必要に応じて作り出すので、作られた瞬間からダンジョンマスターの従う魔王の配下となるのだが、自然に発生したモンスターはどうなのだろうか。ダンジョンモンスターのように最初から生まれた地を支配する魔王に従っているのだろうか?


「『支配者』の能力の影響を受けている中で倒せば仲間になるのは知っているけど」


『支配者』は全ての魔王が持つ能力で能力の影響範囲内にいるモンスターの身体能力を上げ、狂暴化させる効果を持ち、これは常時発動型の能力で、魔王の意思ではどうする事も出来ない。例外はトウヤの持つ『能力調整』のように別の能力の効果を打ち消すような能力を持っている場合だけだろう。


「そう、その『支配者』の力で倒すだけですよ。生まれたばかりのモンスターは無所属、どの魔王にも従っていません。なので生まれた瞬間に近くのモンスターが倒して仲間に加えるんですよ」

「支配者の範囲ってそんなに広くないよね、常に効果の及ぶ範囲内に魔王がいれるとも思えないけど……」


 トウヤの場合だと普段生活しているコロウ山全体とその周辺を少しだけ。ゲペルの街やスピリットファームまでは届かない。だからあの周囲でモンスターが生まれてもトウヤの配下には出来ない。


「そうですね。オヤジも地域全体に『支配者』の効果で包めはしません。そのためにダンジョンを使うのです」

「ダンジョンを?」

「はい、ダンジョンには『支配者』の効果を伝る中継地点の役割もあるんですよ。そしてダンジョンを一定の間隔で置くことで『支配者』のエリアを安定させて広げることで、常に自身の『支配者』の効果を及ぼしてるエリアがその魔王の支配地域となります」

「えっと、僕は今『支配者』の発動をオフにしてるけど、もしかしてゲペルの街の周囲って」

「そうですね現在は魔王不在の空白地帯になっているでしょうね」

「もしかして、それってヤバかったりする?」


 トウヤは『支配者』を使っていないので、ダンジョンの外のモンスターは無所属のモンスターが暴れまわる危険地帯になっているのだろうか。その場合、モンスター同士で戦うのだから人間には影響はないかもしれないし、逆に負けて生活圏を追われたモンスターが人間の住処に降りてくるかもしれない。


「大丈夫でしょう。トウヤ殿の『支配者』の能力範囲はまだ狭いので、その範囲の魔力でしたらスピリットファームが吸収してモンスターは生まれてこないでしょうし、モンスターが生まれそうな所まで離ればオヤジの支配地になっているでしょうから、生態系の変化など全く起きていないでしょう」

「そうか、よかった」


 トウヤがスピリットファームを手に入れてしまった事で何の変化も無いと分かり少し安心した。


「支配で思い出したけどさ、この辺りを支配している弓の魔王ってどんなやつか知ってる?」


 現在トウヤ達がいるのは弓の魔王アルバレストの支配する地域、何かの間違いでかの魔王と戦闘になった時のために得られる情報があるのなら今の内に知っておきたいと思うトウヤだった。


「弓の魔王とは過去にオヤジが戦った事がありますよ。たしかその時に配下の魔族は全滅、魔王自身もギリギリ動けるような状態で逃げ出しました。まだその時のキズは癒えきってはいないはずですよ」


 ツチミカドはその時の魔王の様子を思い出しながら語る。両手はもげ、魔力もなく、片足を引きずるように逃げていく姿。魔王は魔力があれば失った体も少しずつ回復していくし、魔族も自分を作り出した魔王が生きている限り何度でも蘇る事が出来る。しかし魔族の復活にも魔王の回復も魔力が必用なので両方を同時に行うと時間がかかってしまう。

 どちらかを優先させていたとして、配下が一人復活しているがキズは全然癒えていない状態か、キズをある程度回復し、自由に動け満足に戦闘は行えるだろうが配下の魔族は無し。そんな状態だろうとツチミカドは予想していた。


「カイリキーが逃がしちゃったって、相手はそんなに強かったの?」

「いえ、弓の魔王は二つの理由からわざと逃がしたんですよ」

「二つの理由?」


 敵をわざわざ逃がすなんてどんな理由だろうかと気になるトウヤだった。


「一つはオヤジの趣味みたいなものですね、今逃がせば次は対策を練り、もっと強くなって挑戦してくるだろうってね」

「ああ……」


 それはとてもカイリキーらしい理由だなと感じるトウヤだった。


「もう一つはもっと重要な事でして、魔王を倒してしまうと、その魔王が支配していたダンジョンが手に入るんですよ。魔王討伐とダンジョン入手、さらにダンジョン内のモンスターによって配下が増える事でどれだけ魔王ランクが上がるかわからなかった。そして魔王ランクが上がる事で『身体強化』が成長して自分がまともでいられるかわからなかった。それで弓の魔王を生かして逃がす事にしたのです」


 魔王ランクが上がると魔王として強力な能力が増えていく。その強力な能力の一つですべての魔王が持つ能力の一つが『身体強化』だ。これは戦闘能力を強化する効果があるのだが、それと一緒に精神も魔王としての狂暴で残虐なものに支配されていく。これは『支配者』の効果が自分に来るようなもので対抗する能力が無ければ徐々に蝕まれていく。

 カイリキーには混乱や幻惑を受けても冷静に物事を考える能力があり、それによって身体強化の影響を受けていても普通でいられている。それでも全ての影響を排除できているわけではなく、死体を見ても何も感じないし、殺し、奪う事に罪悪感も無い。強い奴と戦うのは好きだし、仲間を大切には思っているが、その仲間を守るため、相手に勝つための犠牲を何とも思わず、弱い者には興味もない。これのどこまでが身体強化の影響によるものかはわからないが、確実に精神を蝕まれているのをカイリキーは感じている。

 そんな訳でこれ以上自身の魔王ランクが上がる事を危険視したカイリキーは弓の魔王にトドメを刺す事はしなかった。


「たしかにそれじゃトドメはさせないね。でもそれなら今の弓の魔王は活発な活動はしてないんだね」

「そういう事です」


 それならば自分達が弓の魔王とあたる事は無さそうだと安心するトウヤ。


「色々教えてくれてありがとう。ナビって聞いた事にしか答えてくれないから追加で情報を出したり、わかりやすく伝えてくれるツチミカドに聞いて良かったよ」

「そう言っていただけると嬉しいですね。しかしナビとは誰ですか?」


 ツチミカドは聞き覚えの無いナビの名前に疑問を持つ。


「あれ、ツチミカドには紹介してなかったっけ。僕のサポートをしてくれている存在の名前だよ」

「サポート? はて?」


 ツチミカドには聞き覚えの無い単語ばかりだ。


「カイリキーにはサポートしてくれる存在は居ないの? 僕の中にいて、能力の効果とか説明してくれたり、文字を読んだり計算をかわりにしてくれる存在なんだけど……?」


 ナビのような存在はカイリキーにも当然いるものだと思っていたので驚くトウヤ。


「いえ、オヤジにはそんな存在憑いてないですよ。他の魔王にも聞いた事は無いですが……」

「僕だけって事?」

「そうですね。そのサポートなる者もトウヤ殿だけの特殊な能力なのでしょう」


 ツチミカドが今まで出会った魔王は全部カイリキーの敵だ。なのでその能力の全てを知っているわけではないし、世界に存在するすべての魔王に会ったわけではない。なので絶対にサポートが存在しないとは言えないが、魔王の能力は独特なものばかり。サポートもトウヤの特殊な能力の一つだろうと納得するツチミカドだった。


「さてと、そろそろ見張りの交代の時間ですね。スターリン殿とシヴァイ殿が起きる前にこの話は終わりにしましょう」


 ツチミカドが使った眠りの魔法もそろそろ切れる頃だ。交代のタイミングを狙い、調整して魔法をかけたのでこのまま話を続けてたらうっかり誰かに聞かれる危険性もある。

 そんな訳で二人は会話を終了し、次の二人が起きるまでたわいない話をしながら時間を潰すのだった。

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