第60話 カリニ村 6
「それじゃ行ってくるね」
「うん、気をつけるのよ」
トウヤ達が村を出ていくのをラピス達が見守っている。
「さてと、それじゃ私達も行動開始しましょうか」
トウヤ達の姿が見えなくなり、ラピスもカリニ村の復興のため、出来る事を始める事にした。まずはカトルの従者達に村の修理の進行状況の確認してもらう事、村人達に不足しているモノや要望を聞いてもらう事などをお願いしておく。
そうしてカトルの従者への頼み事が終わったタイミングで馬小屋の方からシンデレラとシラユキがやってきた。二人は夜の間はスピリットファームに帰っていて、朝になってまたやってきた。カリニ村の現状は旅人を止めるような余裕は無い。リヨナとニッチはリヨナの実家に泊り、カトルは村長の家の世話になったが、後はラピスが貰った馬小屋で干し草の上にシーツを被せた簡易ベットで一夜を過ごし、シラユキ達は一旦ダンジョンに帰ってもらったのだった。
「おはようシラユキちゃん、シンデレラちゃん」
「おはよ~」
「おはようございますラピスお姉様、それで今日も木を切ればいいのかしら?」
やってきた二人に挨拶するラピス。シラユキが挨拶を返すと今日の予定を聞いてきた。
「いいえ、昨日の内に用意したのがまだ残っているし、今日はまた別の事をしてもらうわ」
昨日ラピスとトウヤが持ってきた木はもう全部シラユキとシンデレラによって修理に使いやすいように加工されている。それはまだ山のように積まれて残っているので今日の所は新たな材料を用意しなくても足りるだろう。
「はたけ?」
「う~ん、そっちは村の人に任せましょう」
ラピス達がやれば荒れた畑を数分で使える状態にする事も出来るだろう。だが自分達がそこまでする必要は無いだろうとラピスは考えている。食事や住処は急いで何とかした方がいいと思い手を出したが、それも全部をラピス達でやるのではなく、食材の用意や森から木を運んでくるなど、村の現状ではどうしようもない所や時間のかかる重労働の部分をやっただけで村人達の力でどうにかなる部分は任せている。直った村をただ渡されるより、自分達の力で村を元に戻すべきだろう。
「今日は狩りに行きましょ」
「かり?」
「そうよ、半年前にこの村を襲ったモンスターがまたやってきて、せっかく直した村を壊しちゃったら大変でしょ、昨日木を取りに森に行った時にそれっぽいモンスターをトウヤ君が見つけたのよ。だから巣ごとそいつらを片付けちゃおうと思うのよ」
森の奥にはモンスターが住んでいてトウヤとラピスが木を取りに行った位置は森の入り口、浅い部分だが稀にモンスターに出会う事もある場所だったので、トウヤはマップの機能を使って周囲のモンスターを警戒していた。そうして伐採している場所の近く(と言ってもマップの画面での話で実際には視界に入らないくらい離れている)にモンスターの集団がいたので確認に行ったらそれが例のイナゴモンスターの巣がある場所だと分かった。それを今回倒しに行こうという事だ。
「ついでにそのモンスターの素材をお金にすれば復興の役に立つんじゃないかしら」
モンスターの核や素材を売ればお金が手に入り、それで野菜の種や株、それ以外にも不足している物を入手することが出来るし、来年の年貢の代わりとして使う事も出来るだろう。
「そんなわけで、今日の予定は狩りです」
「は~い」
「わかったわ、ラピスお姉様」
そんなこんなでラピスはカトルの執事に行き先を伝えて三人で森に入っていった。
◇◇◇◇
これはトウヤ達がカリニ村からカトルの家に向かっているある日の夜の出来事。一行は日が落ち始め、近くに村もなさそうだったので開けた道の端に馬車を止め野宿していた。
現在トウヤとツチミカドは夜の番をするため焚き火の近くに座っていて、カトルや冒険者チーム、サギヨウの人達は馬車の中で眠っている。
「そういえばさ、外のモンスターってなんで人間を襲ったりするの?」
今日は夜の番がツチミカドと組むことになったので、長い夜の時間つぶしにトウヤは気になっていたことを聞いてみた。常にマップで人やモンスターの動きを把握しているので話をしていても不意を突かれるような事はない。ついでに馬車の中の皆を確認したが、睡眠状態にあり、今ならどんな話をしていても大丈夫だ。
「少し待ってください、
ツチミカドの手から魔力の風があふれ周囲に吹きわたった。この魔法の風を当てられた対象は強制的に眠りに誘導される。これで一定時間は寝たままなので偶然目を覚まし会話を聞かれる危険も無くなっただろう。内容がモンスターに関わる事なので自分達の正体に関係した事を話す必要もあるかもしれない。なので念のために魔法で眠らせたのだった。
「さて、これでしばらく皆さんが起きる事は無いでしょう。それで、外とはダンジョン外という事ですか?」
「うん、ダンジョンのモンスターは侵入者相手でもないと人間を襲うような事は無いでしょ。ダンジョンから出ていくときもちょっと人間を刺激してダンジョンに呼ぶためだったり、魔王の意思だったりでモンスターが自分の意思で襲うわけじゃないでしょ。でも外のは自分の意思で襲って人間を食べる。モンスターは食事も不要なのはずなのに」
「そうですね、まずモンスターは食事を必要としない、それが間違いです」
「え、そうなの?」
「はい、モンスターは魔力が集まって生まれますよね?」
モンスターは魔力が集まる事で核となり、さらにその周囲に魔力を集める事で体を作り、一体のモンスターとなる。モンスターの種族は元となった魔力の質によって変わってくるので、スピリットファームなら死霊系のモンスターを作りやすく、ミズシマのネクタルレイクならば岩系や魚系のモンスターを作りやすいという風に場所で変化がある。さらにモンスターの核が出来る時に集まった魔力量でモンスターの強さも決まるので、魔力が少ない場所では弱いモンスターが生まれるし、出現するモンスター自体も少ない。逆に魔力が多く貯まっている空間では強いモンスターや大量のモンスターが湧く傾向がある。ダンジョンの場合はモンスターをダンジョンマスターの意思で作り出せるので、モンスターの量や強さを自由に選んで作り出す事が出来るので自然発生のモンスターとは少し事情が異なってきたりもする。
「それでモンスターはその存在の維持に魔力が必要なわけなんですが、ダンジョンでしたら魔力が十分にあるのでモンスターが魔力を補充するのに困る事は無いのですが、野生ではそうではありません。なので魔力を補充するための人や動物を襲って食べる事で魔力を得ないとそのうち自然消滅してしまうんですよ」
ダンジョンでも侵入者を倒すとその死体や血が魔力に変換され蓄積される。なのでモンスターが魔力を補うために人を襲うという事もトウヤは納得出来た。
「それだと今はツチミカドも魔力不足になったりしてない、大丈夫? 前にシンデレラがコロウ山で修行していた時は食事しなくても平気そうだったけど普通のモンスターと違う何かがあるのかな?」
「コロウ山は竜穴のある地ですから、魔力不足で困るような地ではないです」
竜穴とは竜脈と呼ばれる世界をめぐる巨大な気の流れの通り道にあり、気があふれる地点。ラピスの父であるタンザナイトはその竜穴を魔王や悪意ある存在から守るためコロウ山に住んでいる。そんな場所だから魔力もそれなりに豊富で、シンデレラが気の修行でコロウ山でしばらく生活していても問題なかった。
「そうでなくても私は魔族ですし、彼女も上級モンスターですからね。体内に蓄積できる魔力量が普通のモンスターと違います。なのでまったく魔力の無い場所で普通に生活して一年、ずっと戦闘し続け魔力を大量に消費するような状況でも一カ月は存在していられるはずですよ。それにこの旅の間は普通の食事をしてますから、そこから魔力の補充をしてます。なので私の心配はしなくても大丈夫ですよ」
トウヤ達はこの旅の中で人間のフリをするためにカトル達と食事を共にしている。それで自分は魔力の補充は十分なのだとツチミカドは伝えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます