第33話 竜の修行 4
さて五日目、今日は触覚で試してみる番だ。
「また岩の上に座ってればいいの?」
触覚という事は肌で感じるだけだ、ならば聴覚や味覚の時とだいたい同じで目をとじてその神経に集中すればいいのだろうかとトウヤは考えた。
「いや、今回はまず服を脱げ」
「え、あ、うん」
いきなり服を脱げと言われて少し驚いたが、それに何か意味があるのだろう。トウヤはタンザナイトを信じ、言われた通りに服を脱いだ。
「マスターの服は私が預かります」
「あ、ありがとってなんでいるのイバラ?」
服の置き場に困っていたトウヤにイバラが手を出してくれたので、そのまま服を渡したのだがそこで動きを止める。よく考えたらイバラはなぜこの場にいるのだろうか。昨日の夜に皆で遊びに来たが、そのまま全員スピリットファームに帰ったはずだ。なのになぜ彼女はまだここに居るのだろうか?
「マスターの元に移動できるようになりましたので、せっかくなら身の回りのお世話をしたいと思いまして。あ、大丈夫です首はちゃんとダンジョンに置いてありますから」
ま、仕事はキッチリやっているのなら後は本人の好きなようにさせてあげるか。嬉しそうに服を受け取ったイバラを見ながらトウヤはそう判断した。
「それじゃマスター下も預かります」
当然そういう流れだろという感じでイバラが言う。
「えっと、ズボンも脱ぐの?」
修行のために服を脱げと言われたが、まさか裸になる必要があるのだろうか?
いくらモンスターとは言え女性の前でそれは恥ずかしいと思うトウヤだった。
「ふむ、嫌なら上だけでも大丈夫だぞ。後はその岩の上で寝ていろ。何か感じたら言ってくれ」
半裸の状態で岩に登り、言われた通りにそこで横になる。
「あ~冷たい岩と暖かな空気で気持ちいいな~。横になったらなんだか眠くなってきたよ」
まだ午前中で充分に寝たあとだというのに、気持ちのいい空間に、トウヤのまぶたはどんどんと重くなってきていた。
「うん? 暖かな空気だと。トウヤ、それはいつから感じていたんだ?」
トウヤの言葉にタンザナイトが驚いた様子を見せる。
「え、いつって最初にここに入ってきた時だけど……」
「なるほどな……」
「え、どうしたの?」
「その暖かいと感じているのは竜脈から溢れている気だ。つまりここの気ほど大きいものなら最初からトウヤは感じていたという事だな」
タンザナイトの気を感じられなかったのはまだ感知に慣れてなく、小さな気を感じる事ができなかったからだ。しかし竜穴から溢れる大きな気は肌で感じていたという事だ。
「なんだ、それならこの四日は無駄だったのか」
最初から感じていたのならこの四日間は無駄な時間を過ごしていたのだろうか。これなら最初から洞窟の雰囲気を語っておけばよかった。
「いや、むしろ他の四つの感覚では気を感じれれないと分かっただけ意味があるぞ。どうせ一度は全部試す予定ではあったからな」
例え最初から触覚を経由して気を感じる事が出来ると分かっていても、では他の感覚ではどうかと確認する必要はあったようなのでこの四日は無駄では無かったとわかり安心できた。
「よし、それじゃ次はより小さな気でも肌で感じられるようにしていく修行だ」
触覚で感じているとわかったので、次はその触覚に合わせた修行で感覚を鍛える番だ。今のままでは大きすぎる気しか感じられないので実際の戦闘では何にも使い物にならないからだ。
「わかった、それでどうするの?」
「とりあえず全裸になれ」
タンザナイトがトウヤのズボンを指して言う。ラピスがキラキラした眼差しを向けている。自分に仕事が回ってきそうなのがうれしいのだろうか。
「裸にならないとダメなの?」
「今から滝に向かうのでな、服を着ていると濡れてしまうぞ?」
「そっか……」
それならば仕方がない、トウヤは魔王になった時に元主人たちから拝借した服しかもっていないので、この服が濡れてしまうのは確かに困る。
「あ、そういえば服の丈を合わせてないや」
今のトウヤならアイテム作成を使って服の丈を合わせるとこも出来る。無理してブカブカの服やズボンを履いている必要もないのだ。
そんなわけで全裸になるついでにトウヤは服を自分のサイズに合わせる事にした。ただの服なので特殊な効果は何もついていない。ボロボロだったのが新品のような服になっただけだ。
「これで良しっと」
一回服を着なおして感じを確かめてから、もう一度脱いでイバラに渡す。
「申し訳ありませんマスター」
服を改めて受け取りながら、彼女が詫びてきた。その声が落ち込んでいるようだったが、どうしたのだろうか。
「スピリットファームに何かあった時、すぐに対応するために私はこの洞窟から離れるわけにはいきません。そのため滝にはついていくことが出来ません」
コシュタ・バワーがこの山で移動できるのは洞窟内のトウヤの部屋だけだ。だからすぐにトウヤの部屋に行ける場所までしかイバラは移動できない。別にもともと世話をしてもらうつもりも無かったトウヤからしたら気にしなくてもいいのだが、イバラからしたら主に奉仕出来ないことが辛い様子だ。
「ふむ、だったら滝の近くにもイバラ用に小屋を建ればいいではないか」
そんなイバラの様子に何か感じたのかタンザナイトが提案する。
「よろしいのですか、タンザナイト様!?」
「ハハハ、かまわんよ。君達とは昨日拳を交え食卓を囲んだだろ、友のために動くのは当然のことだ」
タンザナイトの理屈では戦闘を乗り越え、一緒に酒を飲み交わした相手とは友人になるようだ。二人が飲んだのは回復用のポーションだったがそのあたりの細かい事はどうでもいいようだ。
「少し待っていてくれ、まずトウヤと滝に向かい、小屋の土地を用意しよう」
「はい、ありがとうございます」
竜の状態のタンザナイトの背に乗って滝に向かう。別に滝についてから服を脱げばよかったんじゃないかとトウヤが気づいたのは滝についた後だった。
◇◇◇◇
「この滝の水はな、竜脈を通ってきているので心を静める効果と、体内の気を感じやすくなる効果があるんだ。この滝に打たれながら精神統一し、体内の気の流れをコントロールするんだ。コツとしては自然と一体になる事だ。あとは流れに身を任せ、その中で少しずつ自分の意思で流れを変えていくすべを覚えていくんだ」
滝に打たれているトウヤの耳にタンザナイトのアドバイスが聞えてくる。トウヤはそれに従っている。
タンザナイトはそんな姿を確認したのち、滝の近くの木を二本尻尾で叩いて折ると、それを加工して四本の柱を作った。それをとりあえず小屋の予定地の四隅に立てた。
「イバラ、準備が出来たぞ」
トウヤのインカムを使ってイバラに連絡を取る。とりあえずプレゼントする土地はこれで用意できたので大丈夫だろう。
連絡をしてすぐにイバラが現れた。
「あぁ、ありがとうございます、タンザナイト様。それでマスターは?」
「あそこだ」
タンザナイトが滝に打たれているトウヤを指さした。
「今は集中しているから何をしてももう聞こえんだろうがな」
「そうなのですか……」
何も出来ないのに残念そうな声を出しながらイバラがトウヤの事をジーっと眺めていた。
タンザナイトはこの間に小屋を作っていく事にした。さて、どんな小屋にすればトウヤは喜んでくれるだろうか。しばらくはこの滝で修行をするので生活の拠点にしてもいいだろう。
(ふむ、トウヤがここに住むとなるとラピスの部屋も必要だろうな。それとイバラやシラユキたちも遊びに来るだろうから……)
タンザナイトは小屋の完成図を想像しながら森に向かった。
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