第32話 竜の修行 3
「はじめましてタンザナイト様、私はトウヤ様配下のモンスター。デュラハンのイバラです。この度はダンジョンのために鱗を提供していいただき……」
イバラがタンザナイトに自己紹介と昼間にあった魔力枯渇を解決してくれた礼を述べている。
「もーお姉ちゃん話長すぎ。そんなの「ありがとうおじちゃん」の一言でいいじゃない」
横に立っているシラユキがイバラに文句を言う。
「そのじょうちゃんの言う通りだ。堅苦しい挨拶はそこまでだ。感謝してくれんなら後で勝負してくれや」
タンザナイトが鋭い視線をイバラに向ける。彼女はトウヤとほぼ同じ強さなので何か感じるものがあるのだろう。さっそく戦いを申し込んだ。
「それがお礼になるのなら……」
「はい、じゃこの話は終わりね。それじゃお姉ちゃんはさっさと帰ってシンデレラと交代してきて」
現在シラユキはイバラから一時的にスピリットファームのダンジョンマスターの権限を貸し与え、ダンジョンマスターの部屋にいる。何かダンジョン内で問題が起きた時に対応する者が必用だからだ。
「わかったわ。コシュタお願い」
イバラの手から首が浮かび上がると、コシュタ・バワーの背中に乗っかった。
コシュタ・バワーの姿が消え、数分後にまた現れた。その背に載っていたのはイバラの首ではなく、シンデレラだった。
「というわけで改めて私はシラユキよおじちゃん、それでこの子が」
「シンデレラ~」
二人がタンザナイトに自己紹介をする。
「ほう、二人とも小さいのに内に秘めている力は相当なもんだな。どうだ、お前達も後で俺と戦わんか?」
「ばとる、ばとる~」
シンデレラはタンザナイトに向かって手を伸ばし、ピョンピョンと跳ねている。
「あらおじちゃん、見る目があるのね。私達そうとう強いけどいいの? お姉ちゃんとも戦うんでしょ、三連敗なんてしたらおじさんの自信がボロボロになっちゃうわよ?」
シラユキは腰に手を当て、生意気な事を言っている。二人とも戦う事に乗り気なようだ。
「ふはははは、それは楽しみだ。なんなら三人同時でも俺は一向にかまわんぞ」
タンザナイトがさらに嬉しそうにしている。
「ラピスお姉ちゃん、あれほっといて大丈夫かな?」
勝負する事で誰かが怪我でもしないか心配なトウヤだった。
「大丈夫よ、三人とも強いもの。お父さんなんてクシャ、ポイッよ。たまには痛い目にあえばいいわ」
ラピスの方は特に不安はないようだ。むしろ父親が負ける事を望んでいるようだ。
「そうだトウヤ君、三人にお父さんに勝てるスゴイ装備作ってよ」
「なんだ、トウヤはそんな事が出来るのか?」
「そうなのよ、このイヤリングもトウヤ君が作ってくれたのよ」
ラピスがトウヤがダンジョン内で手に入れた新しい能力、アイテム作成についてタンザナイトに説明した。
「それはいい。では俺に勝てるすごい武器とやらを作ってくれ」
「いや、でもそれにはもとになるアイテムが必用なんだけど……」
タンザナイトに勝てるアイテムとなると、どれだけ価値のある素材が必要になるだろうか。現在トウヤ達がいるのは山の頂上、見渡す限り岩くらいしかない。これではたいしたアイテムは作れないだろう。
「あら、素材になるアイテムならそこにいっぱいあるじゃない」
そう言ってラピスがタンザナイトを指す。
「竜の鱗に竜の牙、それに竜の爪。なんなら竜の目や舌なんかもあるわよ。けっこうレアな素材の山でしょ?」
「いや、さすがにそれは……」
「まったく、父親に容赦のない娘だ」
ラピスの発言にトウヤとタンザナイトは引いている。たしかにその素材を使えばいいものが出来るかもしれない。試しにトウヤは前に皿として使うために取られたタンザナイトの鱗を使って何か作ってみる事にした。
アイテム作成画面の右上の数字を確認すると255となっていた。鱗一枚で結構なポイントがもらえるようだ。
「魔力無効を付けて」
「その効果を付けるにはポイントが足りません」
前にイバラのティアラを作った時の元の数値からしたら255は相当なものだったのに、これでも魔力無効を付けるにはまだまだ足りないようだ。
トウヤはアイテムの作成を中断する。もともとは鱗がどれだけの価値があるのかが見たかっただけなので、それが確認できただけでもう後は用事がない。
「よし、ではちょっと戦ってくるがトウヤ達はどうする?」
さすがにこれ以上鱗を剥がされるのは勘弁なので、追加のアイテム作成は無しになった。そして四人が戦える場所に行く前にトウヤ達についてくるか聞いた。
「私はパス。ここから様子だけ見てるは」
ラピスは別に行く気は無いようだ。
「だったら僕もここにいるよ。みんな怪我しないように気をつけるんだよ」
ラピスだけここに置いていくわけにはいかないし、近くで戦いに巻き込まれるのは嫌だったのでトウヤも残る事を選んだ。しかし戦いに行くのに怪我をしないようにとはなんともおかしな注意だとトウヤは言ってから思った。
「大丈夫だ、そのへんはちゃんと手加減してやるわい」
「はい、妹たちが無茶しないようにちゃんと見張っています」
「平気よ。マスターの名に恥じないウルトラ、スーパー、グレイトな戦いを見せてあげるわ」
「ばとる、ばとる~」
四人が元気に返事をして去っていった。
三対一、しかも物理無効とアイテムによる魔力ダメージの低下はなかなかの脅威だったようだ。しかもイバラの頭はここにはない、弱点であるはずの火を吐いてくるタンザナイトの攻撃に対して、いくら体が傷付こうと気にせずに防御力や魔法攻撃の威力を弱める魔法をかけ続けていた。
結果シラユキとシンデレラは無傷、イバラは重傷を負いタンザナイトに勝利した。戦いの中で折れたタンザナイトの牙や爪、大量の鱗の使い道は二人の治療用のポーションに当てられた。そこで分かった事は同じ効果でも使い捨てと何度も利用できるのとでは使い捨ての方が低いコストで手に入るという事だ。おかげでポーションを二個作ってもまだ鱗は残り、その使い道は後日考えるという事にした。なんならこれをスピリットファームの魔力に回せば、数年は魔力に困る事は無いだろう。なのでもし欲しいアイテムが何も思い浮かばなかった時にはそうすれば良いのではないかとトウヤは考えていた。
バトルを通してタンザナイトとシラユキ、シンデレラはずいぶんと仲良くなったようだ。今度は一対一で戦う約束をしていた。
「さ、そろそろ帰りましょ」
「え~まだおじちゃんと遊んでたいよ」
「あそぶ~」
二人が竜状態のタンザナイトによじ登ったり、シッポの滑り台を滑ったりしている。タンザナイトもそれを嬉しそうに眺めていた。
「それじゃ誰がダンジョンのお花に水をあげるの?」
「それはジャック達にやらせればいいでしょ」
シラユキは水の魔法が使える。その力でダンジョン内の植物に水を撒くのが彼女の仕事だった。もともとダンジョンを花と緑に囲まれた空間に変えようと提案したのは彼女だ。花に水をやるのも楽しんでやっていた。しかし今はそれよりもタンザナイトで遊んでいる方が楽しかったのだ。
「かぼちゃ~」
シンデレラの方はそう言うとイバラの方に向かった。彼女の方は遊具タンザナイトより自分の育てるカボチャ畑の方が大切なようだ。
「シラユキ、かぼちゃ~」
こっちに来ないシラユキの手を握りグイグイと引っ張っていく。
「もー分かったわよ。カボチャだけじゃない、ニンジンもトマトもキュウリも私の水を待ってるものね。シンデレラ、貴女も炎魔法『
「がってんしょうち」
ダンジョン内は地下なので太陽の光は入ってこない。なので植物に必要な太陽光はシンデレラが担当しているらしい。それを聞きながらトウヤは等間隔で太陽の光を出すアイテムでも作ってダンジョン内に設置しようかと余った鱗を見ながら考えていた。
「それじゃマスター、私達は帰りますね。今日は本当にありがとうございました」
「それじゃおじちゃんまた来るね」
「ばいばーい」
こうしてトウヤの修行四日目は終了していった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます