第31話 竜の修行 2
トウヤが洞窟内の岩の上であぐらをかいて目を閉じている。この岩は自然界の気の流れである竜脈の通る場所、その中で気の溢れる竜穴のある場所の上に置かれていた。その岩の上で五感を研ぎ澄ませることで気を感じられるようになること、それがひとまずのトウヤの修行だった。
修行を始めて四日、今の所気を感じる事は出来なかった。一日目はずっと目に集中し、この岩を見つめていたのだが気を見る事は出来ず、二日目は岩のニオイをずっと嗅いでいた。
そして三日目は味覚で感じるためにずっと口を開けて岩の上にいた。
四日目の今日は聴覚、つまりは気を音として感じるために岩の上で目を閉じていたのだ。これでダメなら明日は触覚、そしてまた視覚に戻るらしい。これを何度も繰り返す事でその内に五感のどれかで気を感じられるようになるんだとか。
『マスター今よろしいでしょうか?』
インカムからイバラの声が聞える。
「何かあったの?」
イバラもトウヤが修行中なのを知っている。気の流れは太陽の出ている時間帯の方が活発なので修行は朝から夕方までだ。なので夜にはイバラやシラユキからその日にあった事を連絡してくる事があるのだが、今まで昼間にそれは無かった。
それが通信があったという事はよほど緊急の要件なのだろう。
『はい、実は今日はお客様が大量に来てまして、魔力が足りないんです』
気が太陽の影響を受けて活性化するように、魔力も月の影響を受けている。つまり昼の時間は自然界から集められる魔力が少ないのだ。しかも今のスピリットファームは誰も死なないように設定されていて、モンスターを倒すたびに死体の代わりにアイテムを渡す設定になっている。そのアイテムの生成や、死ぬ前に発動する転移にも魔力を使うのだが、多くの人がダンジョンを訪れているとそれだけモンスターが倒されるのでアイテムも大量に失われていくし、モンスターに負けて入口に戻される人も多く、そのためどんどんと貯めといた魔力が減っているようだ。
「置いていったアイテムでも対処できないかな?」
トウヤはスピリットファームの運営のために、スピリットファームで手に入れたアイテムを全て置いていった。それを全て魔力に戻してはダメだろうか? そう思い確認してみた。
『はい、全て魔力に変えましたがそれでも対処しきれません。後は私達の装飾品を魔力にすれば一日は持つでしょうが』
装飾品とはトウヤが皆に渡した通信装置やら武器、防具のたぐいだろう。それを消費して夜まで耐えれば多くの魔力が手に入る。それでも結局一時しのぎ、根本的な解決にはならないのだが。
「いや、それは君達の身を護るために置いていったものだから。とりあえずそれなしでどれぐらい持ちそう?」
『今のペースですと一時間くらいです』
一時間ではラピスに乗って向こうに行く事も出来ない。行ったところで何が出来るわけでもないのだが、もしかしたら解決策が見つかるかもしれない。黙って魔力が無くなっていくのを待っている事など出来ない。
「わかった。ラピスお姉ちゃん達に相談してみるから少し待ってて」
『わかりましたマスター』
一人で考えていてもしょうがない。ラピスやタンザナイトに相談すれば何かいいアイデアを思いつくかもしれない。
さっそく修行を中断し、二人に相談する事にした。
◇◇◇◇
「という訳で何かいいアイデアはないかな?」
イバラから聞いた話をトウヤは二人に伝えた。
「一時間以内にトウヤをそのダンジョンまで運ぶくらいなら出来るが、それ以外は思い浮かばんな」
タンザナイトの方は特にいい考えは無いようだ。だが一時間以内に向こうに行けるのならそれだけで十分な気がした。
「ありがとう。それじゃアイデアが浮かんだらすぐに運んでよ」
「うむ、すまない」
「ラピスお姉ちゃんはどうかな?」
タンザナイトは思い浮かばないようだが彼女のほうはどうだろうか。
「うふふ、お姉ちゃんにまかせなさい。私にいい考えがあるわ」
ラピスが自信満々に微笑んでいる。
「まずお父さん、洞窟内に部屋を一つ作って。一分で」
「おういきいきなりだな。任せろ」
ラピスの指示を受けてタンザナイトが人間の姿で洞窟内に向かった。
「ついて来いトウヤ、ついでにお前に竜体術を見せてやる」
トウヤがタンザナイトの後について洞窟に戻る。
「竜体術の基本は気だ。自身の気を操り攻撃の破壊力を上げる、そして相手の気を読む事で弱点を探し脆い部分、一撃で全体にダメージを与える破壊の中心を探るのだ」
タンザナイトが右手を握り、寝室の壁を殴る。おそらく気を溜めて殴ったのだろうが、トウヤにはただ壁を殴ったようにしか見えなかった。
「岩盤爆砕波!!」
タンザナイトの前にあった壁が粉々に砕け散り、あたりに粉塵が待っている。
「ケホケホ、こりゃ失敗失敗。すぐにきれいにしよう」
タンザナイトの背に竜の翼が現れた。そこに魔力が集まっている。
「
翼をひと
粉塵が無くなった事でようやく向こうが見えた。そこには六畳の空間が出来上がっていた。
「おいラピス、部屋が出来たぞ、それでどうするんだ?」
「ありがとうお父さん。それじゃこの部屋をトウヤ君にちょうだい」
「うん? 別に構わんぞ」
いったいラピスは何を考えているのだろか、それがトウヤにはわからなかった。
「これでトウヤ君のお部屋ゲットね。それじゃここにコシュちゃんを呼んで」
ラピスの言うコシュちゃんとはコシュタ・バワーの事だ。頭の無い馬のモンスターでその能力は
つまりラピスはコシュタ・バワーをこの場所に呼ぶためにトウヤの部屋を作らせた訳だ。
これで一瞬でここからスピリットファームに行けるわけなのだが、それで彼女はどうする気なのだろうか?
とりあえずラピスの言う通りにコシュタ・バワーを呼ぶ。ちなみにコシュタ・バワーの通信機は首のない彼のために乗馬用の
呼んだらすぐにコシュタ・バワーが姿を現した。
「お父さん、ちょっと竜の姿に戻ってくれない?」
「ふむ? これでいいのか?」
ラピスが何を考えているのかよく分からないが、タンザナイトは娘に言われるまま姿を変える。
「ありがとうお父さん」
ラピスが礼を言いながらタンザナイトの足元に向かうと、そのまま彼の鱗を五枚ほど剥がした。
「うぐわ、なにをするんだ」
「魔力が必要なのよ、お父さんの鱗ならいい燃料になるでしょ」
「ふむ、それはそうだが。まったく、やっとこの間の鱗が元に戻ったと思ったのに……」
タンザナイトがまだブツブツと言っているがラピスに聞く気は無いようだ。気にせずにコシュタ・バワーの元に向かう。
「それじゃ、向こうの事は私に任せてトウヤ君は修行を頑張ってね」
ラピスとコシュタ・バワーの姿が消えた。通信機からイバラのもう大丈夫という報告を聞いて、トウヤは安心して修行に戻る事にした。タンザナイトの鱗によってこの先一カ月は無駄遣いし続けても大丈夫とのこと。そして節約すれば半年は持つんだとか。それまでに何とかする方法を見付けないと、また一か月後にタンザナイトの鱗が剥がされる事になるだろう。さすがにいつまでもそんな事を続けていてはタンザナイトに悪いなと、涙目で足を見ている彼を眺めながらトウヤは思うのだった。
結局この日、聴覚で気を感じる事は出来なかった。その日の夜、カボチャの馬車に乗ったイバラ達三姉妹が遊びにやってきた。
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