第29話 新たなダンジョン 7

「急に呼び出して悪かったな。それじゃ全員揃ったところで報告がある」


 ここは力の魔王、カイリキーの住処すみか。今日は月一の報告会の日ではない、なのに幹部の魔族達を緊急で呼び出されていた。


「待てよオヤジ、全員ってまだキザキの野郎が来てないだろ」


 トラ人間のような魔族が質問する。今日の会議にネクロマンサーキザキの姿がない。


「竜を捕らえるとか言っていましたし、その作戦中なのではないですか?」


 カラスの頭と羽をもつ半裸の男がトラに話しかけた。


「フォフォフォ、という事は今回の招集はキザキの手伝いに誰を向かわせるかという話ですかな」


 釣竿を持ち、藁帽子をかぶったお爺さんが髭をいじっている。


「アハハ、なにアイツ、竜相手に苦戦してんの? カイリキー軍最弱の男だからって言っても竜ぐらいサクッとやってもらわないと困るよ」


 クレーンゲームのアームのような腕を伸ばした球体がフヨフヨと浮いている。


「いや、キザキならここにいる」


 カイリキーが手を開いて見せる。その手の中には黒い玉があった。


「もしかしてその魔王玉は……」


 それは魔王玉、魔王だけが持つ、魔族を創り出す事のできる玉だ。そしてやられた魔族はこの玉の形になり、時間の経過で復活するのだ。そのへんはモンスターの核と同じなのだが、核と違うのは魔王玉になった時は、その魔族を造りだした魔王の元に戻る事と、やられた時までの記憶を持ったまま復活する事だろう。


「そう、これがネクロマンサーキザキだ」


 カイリキーがトラの考えが正しいのだと伝える。


「うっわダッサ。手こずるどころかやられてやんの。あの報告から何日? いくら何でも早すぎるっしょ」


 浮かぶ球体がケタケタと笑っている。


「そう言ってやるなヒノよ。もしかしたらそれだけ強い相手じゃったのかもしれんぞ?」


「確かに、彼は直接的な攻撃力で言えば最弱ですが、影の魔術はなかなかのもの。ただの成竜ごときに数日で簡単にやられるような事は無いでしょう」


 老人がキザキをフォローする発言をし、カラスもそれを支持する。


「確かにその可能性が高い。ちなみに、キザキの魔王玉が戻ってきたと同時にスピリットファームも奪われた」


「おい、ダンジョンが奪われたってことはそりゃ……」


「そんな事が出来るのは魔王だけですね」


 普通にダンジョンが攻略され、ダンジョンマスターが倒された場合、そこはマスター不在のダンジョンになるだけで、倒した者のものになるわけではない。しかしマスターの居ないダンジョンに魔王が訪れる事でそのダンジョンを奪う事が出来る。

 直接戦闘に参加したのか、漁夫の利でダンジョンを手に入れたのかはわからないが、偶然に空のダンジョンを見つけて奪ったなんて事はまずないだろう。


「つまり、キザキがやられた背後にどこかの魔王が絡んでいると」


「今ウチと戦争しようって魔王はどいつだ?」


「さぁのう、弓の魔王、雷の魔王、海の魔王、まな板の魔王あたりの配下とは戦った記憶があるぞい」


「雷の魔王は四百年ほど前に勇者に倒されているはずですよ」


「僕は原初の七魔王と戦ってみたいな~」


「お前、さすがに原始の七魔王はな……」


「あの方々が動き出したら世界の終わりですよ」


 トラとカラスが球体の発言に若干引き気味になる。

 四人の魔族がちょっかいを出した魔王について話をしているが、情報が何もない現段階では無駄な話し合いだ。最終的には自分の希望を言い出す始末。


「キザキが復活するまで数十年、それまで相手の事は分からねーってのか?」


「フォフォフォ、それまで待ってたらその魔王は別の場所に逃げてしまうかもしれんのう」


「え~キザキを倒したんでしょ。僕戦ってみたいよ」


「みなさん落ち着きましょう、ここはオヤジの意見を聞こうじゃありませんか。私達をわざわざ集めておいて、ただキザキがやられたって報告だけのはずがないじゃないですか」


 キザキがやられたといっても、別に永遠の別れという訳ではない。作り出した魔王がいる限り何度でも復活できるのだ。だからその事が緊急招集の理由ではないはずだ。なにかしら別の思惑があるのだろう。

 全員の視線がカイリキーに集まる。


「まずは竜を調べようと思う。たしかスピリットファームの近くには竜の住処があったよな?」


「おう、たしかコロウ山に蒼竜そうりゅうの一族が住んでいたはずだぞ」


 カイリキーの質問にトラが答えた。


「ではその山の竜を探りますか?」


「そうだな、直接関係無かったとしても、自分の土地の近くに別の竜が来ていたら、何かしらその竜について知っているはずだろうからな」


 まずは情報を集めなくては。どこの竜と魔王の仕業かわからないが、近くに住んでいる竜なら何か知っているのではなかろうか。必要ならコロウ山の竜を殺してでも情報を手に入れようとカイリキーは考えていた。


「オヤジその役目、ぜひこのバードウォッチャーツチミカドに」


「おい、なに言ってだカラス野郎。ここはカイリキー軍の鉄砲玉、特攻隊長である俺様、ビーストテイマーカネモトの出番だろ」


「フォフォフォ、コロウ山に一番近いダンジョンはワシのネクタルレイクじゃ。このフィッシャーミズシマに任せてもらおうかのう」


「僕、アイアンシェフヒノも忘れてもらっちゃ困るよ」


「「「「オヤジ、コロウ山行きを許可してくれ」」」」


 四人の声が重なった。全員が自分こそがキザキを倒した相手を探し出しその息の根を止めるのだとやる気になっていた。それはキザキのかたきを取るためじゃない。ただ単にキザキを倒した相手と戦ってみたい、それだけの話だ。彼らはみな戦闘を愛し、戦闘に愛された男、力の魔王カイリキーによって造られた魔族。全員が強敵を求める戦闘狂バトルジャンキーたちなのだ。


「「「「ああん?」」」」


 四人の魔族が互いを睨む。


「おい、テメーら表出ろや。俺様の強さ再確認させてやらぁ」


「ははは、いいですよ。では勝った者がコロウ山に行くという事で」


「フォフォフォ、ワシはまだ若いもんには負けんぞい」


「君達なんて軽く料理してやるさ」


 四人が外に向かって歩き出した。全員がやる気十分なようだ。


「全く血の気の多いやつらだ」


 カイリキーが魔族たちを見送り、酒を一口飲んだ。


「さてと、いったいどんな奴なんだろうな、キザキを倒しスピリットファームを手に入れた魔王は」


 敵の出現にカイリキーが肩を震わせて笑う。


「ウチのシマに手を出したんだ、そのツケは払ってもらわんとな」


 願わくばその敵が自分の命を脅かすほどの強敵である事を邪神に祈るカイリキーなのだった。


「フォフォフォフォ、まだまだよのう」


「くっそ、じいさんまた腕を上げやがって」


「まさかあんな隠し玉を用意しているとは」


「仕方ない。今回は譲るよ」


 四人が出て行ってから約一時間、向こうの戦いも決着がついたようだ。


「おう、で誰が行くんだ?」


「ワシが行く事になりましたのじゃ」


 ミズシマが前に出てカイリキーに報告する。


「必ずや下手人の首をオヤジの前に突き出すので、待っていてくだされ」


「おう、だが無理はするなよ。いくら数十年で復活するとはいえ、これ以上家族が減るのは嫌だからな。勝てなさそうなら戻ってこい」


 相手の実力が分からない以上、ムリをして深追いするのは危険だ。


「その辺の見極めは得意ですじゃ、安心なされよ。オヤジ的にはワシが敵わぬ相手の方が良いのでしょう?」


「ふ、そうだな。よくわかっているじゃないか」


「なに、コロウ山で目的の人物に出会えるとは限りませぬ。しかし相手のシッポくらいは掴んできますのじゃ、フォフォフォ……」


 そう言って老人は出口に向かって歩いていった。


「ツチミカド、お前はミズシマのサポートをしてくれ」


「おうよ。任せとけオヤジ」


「カネモトとヒノはツチミカドのダンジョンのフォローを頼む、もしかしたらダンジョンを奪ったやつがそっちにも手を出す可能性もあるからな」


「わかったぜオヤジ」


「りょ~かい」


 全員が返事をし、それぞれに与えられた仕事をするために出ていく。


「さてと久しぶりに戦争になるかもな。これはあねさんに報告しておくか」


 全員がいなくなった部屋で一人呟くと、カイリキーは静かに部屋を出ていった。

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