第24話 新たなダンジョン 2

 金色のミディアムなサララサヘアーの生首を持った少女。ステータスにはデュラハンと書かれている。レベルは30、今のトウヤの身体能力と見比べたがほぼ同じだった。


「成功したのか?」


 トウヤは上手くいったのか不安になり尋ねる。


「はいマスター」


「えっと、それじゃ君が僕の仲間になったのはいつ?」


 記憶を受け継いだかの確認だ。まともに会話が出来なかったのでこれで正確な確認が出来るわけではないのだが、トウヤは気持ち的に確認しておきたかった。合成の結果何か問題があったら大変だ。


「六日前です。あの時マスターからステキな竜の刺しゅうの入った赤いリボンが巻かれた帽子をいただき、ラピス様とダンスをしました。私が生まれた時の大事な思い出です」


 腕に抱かれた生首がその時の思い出を語りだす。無事に記憶も受け継がれているようだ。


「それでマスター。お願いがあるのですが、私に名前をくれませんか?」


「名前? デュラハンが名前じゃないの?」


「それは種族名です。マスターが人間とか魔王って呼ばれているようなものです。間違いではないのですが、私を指すちゃんとした名をマスターから頂けると嬉しいです」


「上位モンスターはモンスターより魔族寄りになる傾向があります。そのため個性が強くなり、種族全体より個を優先するようになり、個別の名を望むようになります。これは強制ではないので無視しても構いません」


 ナビが補足するように伝える。


(もしかしてネクロマンサーキザキも、ネクロマンサーが魔族としての区分でキザキが名前だったのかな?)


 本人がそう望むのなら叶えてあげよう。


「でも名前とか付けた事無いからな、どんな名前を付けたらいいか……」


 困ったのでラピスの方を見た。


「私も名付けはな……。カボちゃん、カンテラ、デュラコ、パツキン……」


 なんとも微妙な名前を呟いていく。名前自体はアレだが、デュラハンの様子から名前を考える作戦は悪くないかもしれない。

 デュラハンの生首は眠ったように目を閉じている。


(眠っている美少女…… スリーピングビューティー…… スーリン…… スッピー…… ピングー…… ネムリン…… グビティー……)


 一つの事から色々と考えていくが思いつかないので、何かのヒントになるかとステータスも見てみた。

 それでわかった事はあの手に持った頭に核があり、頭さえ無事なら体がどれだけ傷付こうと、欠損しようと生きていられて、時間が立てばもとに戻るようだ。そして頭が壊されれば一撃でも終わりのようだ。これはリビングデットと同じ能力だ。核の中にゾンビ系のモンスターがいたのでその影響を受けているのだろうと判断した。

 物理無効もちゃんとついている。状態異常や一撃で相手の命を奪えるような呪い系の魔法を扱えるようだ。弱点は火と聖属性で、氷や土の属性には強い抵抗力を持っている。「死相」というもうすぐ死ぬ運命にあるもがわかるという能力をもっているようだ。


(う~ん、いいアイデアが思い浮かばないな)


 ステータスを見てもあまり参考にはならなかった。


「それじゃイバラでどうかしら?」


 トウヤが悩んでいる間にラピスが案を出してくれた。


「ほら、彼女にはこのダンジョンを守ってもらうんでしょ。だったら茨のようにトゲで身を守り進行を止める。そんな存在になってもらおうって希望も込めて」


「うん、それじゃ君の名前はイバラ、これでいいかな?」


 考えすぎて何がいい名前なのか分からなくなってきたので、ラピスの提案をそのまま採用する事にした。


「はい、ステキな名前です。私なんかのためにこんなに考えていただき、マスターもラピス様もありがとうございます」


 少女の上に表示された名前がデュラハンからイバラに変わる。


(別に種族名と名前が一緒に表示されるって訳じゃないんだ。それじゃキザキの名前は彼の魔王がわざわざあんな長いのを付けたって事か)


 イバラも名前を喜んでいるようだし、これ以上名前の事を考えるのはやめた。


「それじゃさっそく、スピリットファームの全権をイバラに与えよう。その椅子に座って」


 イバラが椅子に座り、ひじ掛けの水晶に手を置く。


「魔王の名においてこの者をスピリットファームのダンジョンマスターに任ずる」


「承認完了、ただいまよりイバラ様が新たなダンジョンマスターとなりました」


 水晶が輝きナビとそっくりな声が聞えた。


「あれ、今の声ナビに似てない?」


「ダンジョンの管理を円滑にするため私の人格をインストールし、一部を同期していますので」


「じゃあいつもの二等身ナビを皆に見せる事とか出来る?」


「これでいいでしょうか?」


 水晶が光り映像を投影する。そこには見慣れた二等身のナビが写っている。


「お姉ちゃん、これがナビだよ」


「あら、初めまして」


「はじめましてラピスラズリ様。私はトウヤ様のサポートを務めさせていただいていますナビと申します」


 ナビがお辞儀した。トウヤはどうにかして二人を会わせたいと思っていた。ラピスにその存在は伝えていたが、トウヤ以外には彼女の事が見えないし声も届かないのが寂しいと思っていたのだ。それがこのダンジョン内限定でだがこうして叶ってよかった。


「私の事はラピスでいいわよ」


「はい、ラピス様。私ではトウヤ様の日常生活のサポートは出来ません。どうかラピス様が支えてください」


「うん、お姉ちゃんに任せて。トウヤ君の事は大切にするわ」


 二人の最初の接触は良好に終了した。


「それでマスター、スピリットファームはどのようなダンジョンにしていけばいいでしょうか?」


 イバラが椅子に座ったままトウヤに訪ねる。


「どのようなと言われてもな……」


「具体的な方針を示していただかないと、ダンジョンマスターとしてどうダンジョンを育てていけばいいのか。とりあえず今まで通りでいいでしょうか?」


 イバラはダンジョンをトウヤの望むようにするため、トウヤの考えを尋ねた。


「今まで通りってどんな感じ?」


「そうですね……」


 イバラが水晶を操作して画面にダンジョンの全体図を映し出す。


「ダンジョンにやってくる人間に対して少しずつ強い敵を当ててレベルを上げ、どの上で殺して強力な駒を手に入れるですね。このままでいきますか?」


「いや、殺すのは嫌だな。でも人間のレベル上げに使ってもらうってのはいい考えかも」


 トウヤの半分以上は人間で出来ている。むしろ魔王の部分が後付けでほんの一部だ。だから人間として人を気付けたくは無いし、モンスターに対抗するために強くなっては欲しい。


「しかしそれだとダンジョンの運営が厳しくなりますが?」


「運営? どういう事?」


 トウヤは何が何だかわからないので尋ねる。しかしイバラの方は全部わかっているようだ。ダンジョンマスターになった時にダンジョンに関する知識も手に入れたのかもしれないとトウヤは思った。


「ダンジョン内の罠の発動や発動後の自動での再設定、他にもモンスターの生成や人を集めるためのお宝の作成、ダンジョン内の空気の循環や壁の補強、死体やごみの処理などは魔力を消費して行います。そして自然界から集める魔力だけでそれを補うのは不可能なので、侵入者の血や肉、魂から摂取するのが必要不可欠となります」


「人を殺さずにそれは不可能と?」


「はいモンスターの血や肉、魂はもともとダンジョンで出来たモノ。それを吸収したところで消費を抑えただけでプラスにはなりません。しかもモンスターの部位や魂である核は倒した人間が持ち帰るので結局はマイナスです」


 罠や新鮮な空気の循環で結局は魔力を消費し続ける。そこでモンスターやアイテムが人間に奪われ続けるのに、人間から魔力を奪えないのならどんどんと魔力が削られていくだけだ。これでは将来的にダンジョンがモンスターのいないただの穴になってしまう。


「それじゃ罠を全部無くしたらどうかな?」


 それなら罠を動かしたり再設定する魔力が無くていい。


「それでもマイナスですね」


「ねえ、ダンジョンを小さくしてみたらどうかしら? そうすれば削った分魔力が少なくていいでしょ?」


 ラピスが話を聞きながら自分の意見を出した。


「小さくするのは不可能ですが、この部屋を上の階に移動させて、そこより下の生命維持機能や保護機能を停止させる事は可能です」


「それでどの程度まで行けそう?」


「それでもやはり難しいですね。体の一部だけでしたら自然界から魔力を吸収して自力で直せるモンスターもいますが、核が奪われますと新たにモンスターを作り出して補充するしか……」


 スピリットファームのモンスターはゾンビや幽霊などアンデット系がほとんどだ。だから核さえあれば自力で体を修復できる者が多い。


「つまり死なない仕組みを作れればいいんだね、じゃあさ、モンスターの生命力が一定の値を下回ったら指定した場所に強制転移させる罠とか作れない?」


 トウヤが新たに手に入れたキューブの能力を使えばトウヤの味方だけを通過させる空間を作り出す事もできる。そうすれば安全空間が出来上がり、弱ったモンスターをそこに転移させ休んでもらう事が出来るのでは無いだろうか。


「でもそれだと侵入者のうま味が減っちゃうんじゃないかしら? 経験値やモンスターの部位による収入が目的なんでしょ?」


 ラピスが疑問を口にする。確かにモンスターを倒せないのでは人間側にとっていい事は何もない。


「う~ん、経験値って倒さなくても手に入ったりしないの、ナビ?」


「戦闘訓練のような扱いとなり、戦闘が終了した時に手に入ります。しかし討伐時の一割しか手に入りません」


 一割がどれくらいなのかトウヤにはわからないが、ナビの話し方から少なくなるのだろうなという事だけは判断できた。経験値は手に入るのなら後は収入の問題だ。


「それじゃ経験値はいいとして、モンスターが消えると同時にそのレベルに合わせたアイテムを送るってのはどうかな?」


「罠自体は作れますが、やはり人間を傷付けられないのでは魔力の蓄積が間に合わないかと……」


「それだったら人間側にも同じ罠を使えばいいよ。別に無抵抗に殴られろとは言わない。人間の場合は入口に戻するのではダメかな。血や肉片でも魔力が奪えるんでしょ?」


 トウヤにとってこのダンジョンのモンスターも大事な仲間ではある。だから叶う事なら両方を生かす方法を取りたい。


「どれくらい人間が来るかにもよりますが、それなら二十五階層まで縮小すればあるいは……」


 イバラがトウヤの案を採用してダンジョンの変更案を作成していく。


「カカ~」


「カボ……」


 ダンジョンの方針が決まった所でトウヤの服の裾を左右からジャックが引っ張った。紺色の帽子に青と黄色のリボン。最初のジャック三人の残り二人だった。

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