第25話 新たなダンジョン 3
トウヤを見上げる二体のジャック。
「カボボ」
「カボカボ」
何かを言っているようだがトウヤにはさっぱりだ。
「コラ二人とも、マスターが困っているじゃない。我儘を言わないの」
「カボ……」
「だってじゃありません」
「カカボ、カボス」
「お姉ちゃんだけズルい? これはダンジョンの管理に必要な事なの、あなた達の我儘にマスターのお力を割くなんてダメに決まっているでしょ」
イバラがジャック達にお説教を始めた。その様子を見てトウヤは一つの疑問が浮かんだ。
「もしかして、イバラはこの子たちの言葉がわかるの?」
「はい、私はモンスターですから。そうしないと他のモンスターと意思の疎通が出来ませんので」
「そうなんだ。僕にはこの子たちが何を言いたいかわかんないんだけど教えてくれる?」
言葉が通じるのならイバラにジャック達の通訳を頼む事にした。今のままだとジャック達が何を言いたいのかさっぱりわからないからだ。
「それが、この子達もパワーアップがしたいと。出来れば上位種になりたいと我儘を言っていまして」
「そうだったのか……」
「すみません、すぐに諦めさせますから。マスターのお手を煩わせるような事は致しません」
「別にいいよ。問題は二人を強化する核が足りて無いって事だけど」
イバラを作った時の核の余りはまだある。だが二人が望んでる上位種に到達させるとしたら足りないだろう。
「カボ……」
「カボカ!!」
黄色リボンは落ち込み、青リボンの方は他のモンスターに何か言っている。
「こら、みんなに無理を言わないの」
モンスターに語りかけていた方の頭をイバラが叩いた。
「カボ……」
「わかった。お姉ちゃんが何とかしてあげるから」
イバラが水晶に触れ操作を始める。すると部屋の中にモンスターの死体が現れた。
「ダンジョン内の核が残された死体を全部ここに転送しました。これで足りるでしょうか?」
山のように積まれたモンスターの死体。
「こんなに核を残した奴がいたのか。なんで?」
「マスターの仲間になっていないモンスターはリセットのために一度死に、新たに生まれ変わる途中でしたので」
「それって別の魔王軍が次にこのダンジョンを制圧したら……」
「その時は残念ながら全員死にますね」
その知らせにトウヤはこのダンジョンをキューブで覆って魔王軍に所属しているヤツの通行を禁じようと本気で考えた。ついでにゲペルの街も覆っておけば転移能力がある敵以外からはリヨナを守る事も出来るのではなかろうか。
「それじゃダンジョンの防衛力強化のためにも二人にも上位種になってもらわないとね」
という建前も出来たので二人の願いを叶える事にした。
「それでナビ、ここにある核で二人を上位種まで成長させられる?」
「はい、イバラの作成で上位種に必要な核の量は判明しています。この量で二体分ならギリギリ足ります」
イバラよりは弱いが上位種には出来るらしい。それがわかったのでトウヤはさっそくジャック達にモンスター合成を行う事にした。もちろん残す能力は物理無効だ。そうして十歳ぐらいの見た目の少女が二人出来上がった。二人の顔はそっくりで、髪の色以外に違いは見られない。後は着ている服の首元のリボンが黄色か青の違いがあるだけだろうか。
モンスター名はバンシー。レベルはどちらも24で身体能力はラピスより少し弱いくらいだ。黄色リボンは炎魔法、青リボンは水の魔法が得意なようだ。そしてどちらもイバラと同じで「死相」を持っている。
「ますたー」
「私達にも名前ちょーだい」
二人も名前を望んできた。
「そうだな……。それじゃ君はシラユキだ」
真っ白な髪で青いリボンのバンシーをシラユキにした。これは単純に雪のような白い髪だと思ったからだ。
「それで君は……」
灰色の髪をした黄色いリボンのバンシーの名前を考え始める。
(炎の魔法に灰色の髪、もう灰被りでいいかな。敵を燃やして返り血ならぬ返り灰をかぶる。なかなかカッコよくないか?)
「それじゃシンデレラでどう?」
さすがにそれでは可哀想だと思ったトウヤは昔話で聞いたお姫様の名前を思い出しそれを付ける事にした。
「シラユキ?」
「シンデレラ?」
二人が互いを見つめながら相手の名前を呟く。二人の頭に書かれた名前がそれそれシラユキ、シンデレラに変化した。
「ますたーありがとう」
「ありがと~」
トウヤの右手をシラユキ、左手をシンデレラが両手で握って礼を言う。イバラはそんな二人を微笑みながら見て、ダンジョンを直す作業に戻った。
「ねぇね、なにしてる~?」
「私にも触らせて、姉様」
「もう、遊びじゃ無いのよ」
二人がイバラの作業を横から眺めている。
「せっかくなら見た目も変えましょうよ、このダンジョン地味だと思っていたのよね」
「おはな~」
シラユキが水晶に手を伸ばしながら早口で喋る。
「あら、いいわねお花。姉様の名前がイバラだし、入口にバラのアーチでも作りましょうよ」
「こらシラユキ、マスターの許可も無く勝手な事しちゃダメでしょ」
イバラがシラユキを抑える。しかし自分の頭が落ちないよう左手で抱えているので右手一つで彼女を抑えるのは大変そうだ。
「ますたー、だめ~?」
シンデレラがトウヤを見上げている。
「別にいいよ、ここに住むのは君達だろ。だったら皆の気に入るようにすればいいよ」
重要なのはそこに住む皆が住みやすいかどうかだろう。だったら好きにやってくれればいい。そうトウヤは感じ許可を出した。
「それより、さっきから姉様とか君たち姉妹なの?」
「同じジャック・オー・ランタンですからね。最初に生まれた私が長女、後は妹や弟って感じですね」
「他のモンスターも従ってたけど?」
兄弟でなくても、もしかして親戚とかそういう感じなのだろうか?
「アレはジャック・オー・ランタンが最初にマスターの下についたので、ジャック族ってだけでも一目置かれるという感じです。同じ種族だと別モンスターからは同じに見えますから」
つまりは相手がジャックだともしかしたらイバラやシラユキ、シンデレラ達先輩になのか、自分より後に仲間に加わった奴なのか判断が出来ないため、とりあえず従っておくという訳だ。モンスター界はずいぶんと先輩後輩に厳しいらしい。
「このダンジョン外で仲間になったモンスターは関係ないですが、このダンジョン内ではジャック・オー・ランタンが偉い種族となっているんです」
つまり別のダンジョンを制圧した時はそこで最初に倒し仲間にしたモンスターが同じく偉い種族に任命されるという訳だ。今の所トウヤにダンジョンを制圧する予定はないのだが。
「っと、危ない」
話をしていたイバラの首にダンジョンを自分好みにいじっていたシラユキの体がぶつかり落ちそうになった。イバラが慌てて頭を拾う。
「いった~い」
代わりにシラユキが突き飛ばされ尻もちをつくことになった。
(物理無効ってこういう時関係ないんだな……)
痛そうに尻をさすっているが、反射で痛いと言っただけなのか、本当に痛いのかはトウヤにはわからない。
(しかし、イバラの頭はなんとかしてあげたいな……)
あの頭はイバラの弱点だ。それなのに頭だけでは何もできない。戦闘中など常に左手で支えているわけにも行くまい。
「ナビ、考えただけで浮いたり動いたり出来るアイテム無い?」
ナビが該当アイテムをトウヤの視界に映し出す。空飛ぶ絨毯や黄色い雲、小さいプロペラなど様々だ。トウヤはその中でソリのような木製のアイテムを選んだ。説明文を読む限りソリに乗せた物を宙に浮かし、楽に運ぶためのアイテムのようだ。大きさも極大、大、中、小、極小と五段階に分かれていた。頭を運ぶだけなのでトウヤは一番小さいのを選んだ。
後は巾着から宝石を取り出し必要量を確認。アイテムが赤枠で表示されているので足りないのだろう。宝石を追加していくと表示が黄色くなった。今までは交換可能だと青になったのにどうしたんだろう?
「ナビ、この黄色の表示は何?」
「アイテムの価値に対して交換後のアイテムの価値が劣っています」
アイテム作成は等価値でないと別のアイテムに変換できない。これは交換後の価値が少なくてもダメなようだ。
「今までは価値が釣り合わない事って無かったよね?」
これまでに黄色い表示を見たことが無い。何度も交換をしていたのにその全てが上手く価値を合わせれていたという事だろうか?
「今までは武器や防具でしたので、攻撃力や防御力に影響を与える効果を付与して調整してました」
ナビが気を利かせてくれていたようだ。戦闘中に釣り合わないからどうするか、なんていちいち聞かれても困っただろう。そのあたりを考慮して自動で調整をしてくれていたようだ。
「それで今回はなんで調整しないの?」
別に今まで通りに上手い事調整してくれればよかったのではなかろうか。どうして今回に限って黄色い表示を出したのだろうか?
「これは運搬用のアイテムですので、攻撃力などを調整する効果が付与できないのです」
つまりは何を追加していいのかナビでは判断できないという事だ。それでトウヤに決めてもらう必要が出来たのだ。
「この機能を持たせた防具に変える事は?」
「そうしますとサンプルを参考にするのでなく、一からのアイテム作成となりますがよろしいですか?」
作る事自体は問題が無いようだ。
「じゃ、それで」
「わかりました。ポイントを表示します」
トウヤの前に真っ白な画面が現れる。右上に54と書かれた数字が書かれていた。
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