第21話 スピリットファーム 7

 そんなこんなで多くのモンスターを仲間にしたトウヤはダンジョンに入って七日目にキザキのいる所まで辿り着いた。キザキの部屋の上の階に来たトウヤは下の階にキザキの名前が表示されているのに気付いた。一度姿を見ているおかげで床越しでも相手の名前が表示されたようだ。ただの赤枠だけだと普通のモンスターと判別できなかったので、この事はトウヤにとっては有り難い。

 ラピスと自分用に通信アイテムのインカムを作った後に集まったアイテムで、もこもこした肌触りの耳当て風のインカムを大量に作成してジャック達にも装備させた。彼らの言葉はわからないがこっちの言っている事は理解できるのと、ジャック達が最初にトウヤの配下になったためか、他のモンスター達もジャックには一目置いた対応をしていたので、ジャックは隊長としてモンスターの部隊を任せている関係でこちらの指示をつたえる目的で持たせたのだ。


「みんな、今いる下の階でキザキの名前を発見したから一回集まって」


 インカムの向こうから「カボカボ」言っている声が聞える。それを了解しましたとかそんな事を言っているのだろうとトウヤは予想した。


「トウヤ君下に降りる階段を見つけたから、私はコッチから行くね」


「わかった。ラピスお姉ちゃんは正面からお願い。僕は地面の中からこっそり向かって、隙を見てリヨナを救うよ」


 集まってきたモンスター達を最下層とその一個上の階の中間の地中に待機させておく。そして上を塞いでおけばキザキ配下のモンスターに気付かれ、攻撃される心配もない。ここならば何時間でも安心して待機させておける。

 そしてトウヤはそこからラピスのいるキザキの部屋の隣の休憩部屋の上まで移動し、ラピスに壁際まで移動してもらいステータスで彼女の位置を確認。そこから壁の中を通ってキザキの足元まで向かう。


「配置についたよ」


 準備が出来たのでラピスに連絡をする。


「ふう、ようやく到着したわね」


 どこでキザキが聞いているかわからないので、ラピスはただの独り言のように返事を返した。


(リヨナのステータスが表示されないな……)


 上から見た時も、今もリヨナのステータスは見えない。この部屋には居ないのだろうか。


「さてと、あれから七日、妹ちゃんは無事かしら?」


 ラピスもリヨナの居場所を確認したいようだ。


「リヨナのステータスがみえないんだ。この部屋にいないのかも。上手くリヨナの居場所聞いてくれる?」


 向こうで扉の開く音が聞えた。ラピスが部屋の中に入ってきたようだ。彼女のステータスが近付いてくる。


「ようこそ、お待ちしていましたよ竜種のお嬢さん」


「攫って行った子は無事なのかしら?」


 話の流れとかを全く無視してラピスがリヨナの居場所をストレートに聞く。


「はい、そちらにおりますよ」


 それに対し、キザキも素直に答えた。


「あれのどこが無事なのかしら?」


「人間はもろいですからね、ああでもしないと長い間無事に保管しておくのが難しいんですよ。安心してください、ちゃんと元に戻す薬も用意してあります」


 声だけではリヨナがどうなっているかトウヤにはわからない。しかしラピスの声の感じからあまりいい状態ではなさそうだ。ステータスが表示されないのリヨナの現状の影響だろう。


「ほらこの通り、この薬はここに置いておきますね」


 キザキの動きから薬の位置はわかった。その下に向かうトウヤ。


「この結界は私を倒す事で解除されます。薬や石像を壊してしまうんじゃと気になって戦いに集中できないんじゃ困りますからね」


「あら、お気遣いどうも」


 石像とはリヨナの事だろうか、結界が張られているらしいがたぶんトウヤのキューブでなんとかなるだろうか。


「いえいえ。それにしてもさすが竜種ですね、一週間でスピリットファームの最下層まで到着できるだなんて。しかも五体満足でだ。賞賛いたしますよ」


 キザキが気分良さそうに話している。


「相手の注意を引いてくれるかな? その間に薬を奪うから」


 ラピスが小さく「任せて」と呟いてからキザキと会話を始めた。結界が少し不安だったが、キューブで通行できるようにしたら問題なく薬が結界をすり抜けた。そのままトウヤの手元に薬が落ちて来る。


「薬は無事に回収出来たよ。後は突撃のタイミングだけど、これはラピスお姉ちゃんに任せるよ」


 こちらからでは状況がよくわからないので、これも彼女に任せるしかない。

 ラピスはキザキとの会話を続けていたが、その中が相手を挑発する感じになってきた。


「仲間ならそこよ」


 この言葉をトウヤは突入のタイミングだと判断した。薬を取った場所から少し顔を出すと、ラピスが上を指しているのが見えた、キザキもそちらに視線を移している。

 すぐに仲間を配置しておいた場所を通行できるようにし、モンスター達を落としていく。


「リヨナはドコ?」


 キザキがモンスターに気を取られている内に聞く、ラピスが視線でリヨナの居場所を伝えた。落ちてくるモンスターに紛れ、トウヤはリヨナの石像の元に向かう。こちも結界が張られていたがトウヤの前では何の意味も無い。無事にリヨナの元に到着した。薬はキザキを倒した後にしておく。魔王になった事をリヨナには知られたくはないし、この状況で彼女が目を覚ましたらパニックを起こす可能性もある。安全のためにはこのまましばらく石像の状態で我慢してもらおう。


「おや、いつまでたってもお仲間とやらは来ませんね。こうしてやってくるのはモンスターばかり、こちらの戦力が増えるだけですよ?」


 キザキは降ってきたモンスターが自分の敵だとは思っていないようだ。そしてモンスターを落としたであろうラピスの仲間達が現れないことに疑問を持ったようだ。


「何言ってるの? この子たちが私の仲間よ」


 ラピスがキザキの間違いを訂正する。


「モンスターを仲間にするなんてまさか……。貴女もどこぞの魔王の仲間だったという訳ですか」


 キザキもすぐに魔王の存在に思い当たったようだ。モンスターを仲間に出来る存在は魔王しかないので当然と言えば当然か。


「薬が……ない?」


 キザキが椅子に向かい、薬が無い事に気付いた。しかしすぐに意識を変え、椅子のひじ掛けに置かれた丸い水晶を操作し始める。キザキの前の空中に画面が表示されて、そこにジャックのステータスが映し出されている。

 それを確認した後、キザキの視線がリヨナの横に立つトウヤに向けられた。


「少年、お前が0と1の魔王なのですか?」


 ステータスでジャックの所属を確認したキザキが確認のために聞く、その射殺すような鋭い視線にトウヤの心臓は激しく動き出した。これから彼と本格的な命の奪い合いをするのかと思うと、トウヤは恐怖で苦笑いを浮かべた。


「あ、うん、そうだよ」


 こんな時には魔王として威厳いげんのある返しをするべきだろうかとも思ったのだが、そもそも威厳のある話し方とはどんな感じなのだろうか、それがトウヤにはわからず、結局は普段の感じの返答になってしまった。


「そうですか、予定外の来客ですがまあいいでしょう。カイリキー様への土産に魔王の首が追加されるだけの事ですからね」


 トウヤの登場に意表を突かれたが、すぐに考えを改める。別に二人とも倒してしまえば何も問題ない、モンスターが大量にいるのが目ざわりであるが、このダンジョンに自分より強いモンスターはいないのだからサクサク倒せばいいだけだ。

 キザキの影から巨大な腕が現れトウヤを襲う。スピリットファーム内、最後の戦いがこうして始まった。

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