第20話 スピリットファーム 6
「ただいまトウヤ君、そのパンどうしたの?」
周囲のモンスターを確認に行っていたラピスが戻ってきた。そしてトウヤの持っているパンについて尋ねる。
トウヤはジャック・オー・ランタンが配下になった事で魔王としてランクが上がり、新しい能力で作ったのだと教えた。
「カボ、カボ~」
トウヤの周りを一匹のジャックが回っている。これがトウヤの配下になったジャックだ。
「私はラピス、トウヤ君のお姉ちゃんよ。一緒にトウヤ君を守りましょうね」
飛んでいたジャックの手を握り一緒に踊りだすラピス。
「カボカボ~♪」
ジャックもなんだか楽しそうだ。ラピスの言っている事もわかっているようだ。
「トウヤ君も強くなったみたいだし、この調子ならあの魔族も簡単に倒せそうね」
「いや、大した能力は手に入れてないんだ」
フラグチェックが少し強化されたのとアイテム作成だけだ。これだけではキザキに有効打になるとは思えない。
「でもアイテムを別のアイテムに出来るのって強力よ? このダンジョン内で強力なアイテムを見つけたら、それをあの魔族を倒せそうな武器にでも変化させればいいじゃない」
「あ、それもそうか」
同価値って言うのがどういう基準なのかいまいちわかっていないが、アイテムを見つける度に交換してみればいいものがみつかるかもしれない。ダンジョン内にはやられたゲペルの兵や冒険者がリビングデットとして徘徊している。そいつらから武器や防具を取るなり、ダンジョン内のお宝を手に入れるなりすれば交換素材のアイテムが手に入る。とりあえずは魔法攻撃の出来る武器でも見つかればその辺のモンスターにも対応できるので、そんなアイテムを作ろうかとトウヤは決めた。
「カボー!!」
「カ~ボ~」
そんな話をしていると新たに二体のジャックが再生された。
「カカボ、カボ」
「カボッ」
「カ~」
先に生まれたジャックが二体のジャックに何か言っている。トウヤやラピスにはその言葉の意味は分からない。
「え、なんて言ってるかナビわかる?」
「いえ、わかりません」
ナビにもわからないようだ。最初のジャックを先頭に三体のジャックがトウヤに頭を下げ、次にラピスの前で同じ行動をした。
「これからよろしくって事ね。アナタはリーダーなのかしら?」
先頭のジャックの頭を撫でるラピス。さっきのはちゃんと挨拶しろとか、ラピスは仲間だとかそんな内容の話だったのだろう。
「ねえトウヤ君、せっかくだからアイテム作成でこの子たちに色違いの腕輪と作れないかな?」
最初に生まれたジャックを抱いたラピスが提案する。
「うんやってみるよ」
これはいい提案だとトウヤも思った。このまま増え続けたら誰が誰だかわからない。ステータスを見た所で名前は全部モンスター名のジャック・オー・ランタンなのだ。装備で違いが出るならありがたい。
とりあえずその辺に転がっている骨をアイテム作成で変化させた。何か丁度いいアイテムがあればいいのだか。
「ナビ、腕輪とかリボンとかネックレスとかある?」
「この辺りはどうでしょうか?」
マントや帽子を表示する。ジャックが今着ているマントや帽子と同じデザインだ。
「帽子につけるリボンの色を変更したり、帽子の色、またはマントの背中にオリジナルの刺しゅうなどで変化を加えてみてはいかがでしょうか?」
それくらいならアイテムとしての価値に変化はないようだ。トウヤはこのナビの提案を受け入れた。最初のジャックの帽子を藍色に赤のリボンで作成し、正面に銀糸で竜のデザインの刺しゅうを入れた。
他のジャックはリボンの色を青と黄色にした。そうしている内に次々とジャックが再生されていく。なので全員分の帽子をトウヤは作った。
「さてと、ナビ、支配者の効果ってどれくらいの範囲に効くの?」
支配者で能力強化する事で、トウヤが直接戦闘しなくても経験値を稼げ、相手も範囲内なら倒せば仲間に出来る。この方法でジャックの遠距離魔法攻撃で敵を倒す作戦だ。
「現在のトウヤ様の力では一キロメートルが対象です」
「現在って事は広くなるの?」
たぶん魔王ランクが上がる中で強化されるんだろうと思いながらも一応尋ねてみた。
「魔王ランクが上がれば、強化される事があります」
やはりか、予想通りの回答だった。さて一キロとなると相当な広さだ。これなら効率よく出来そうだ。
「いいアイテム探しがやる事に加わったし、少し急ごうか」
トウヤは目の前の地面をキューブの力で通行できるようにし、ショートカットを図った。仲間は物理ダメージのないジャック達とラピスだ。少し高い所から落ちても大丈夫だろうとトウヤは判断した。
まず最初にトウヤが飛び降りる。下にモンスターがいないのはステータス確認でわかっている。このダンジョンの広さだと、一個下の階のモンスターなら床越しでもナビが設定してくれた敵味方識別で赤枠が見える。直接姿を見ないと名前や強さまでは表示されないが、モンスターの有無だけならこれで充分だ。
そうして六階まで降りた時、次の階に赤い枠が表示された。
「ここらで一回試してみるか」
「モンスターがいるの?」
「うん、次の階にいるみたい。ちょうどいいから君達の力が通じるか試してみるよ?」
ジャックニ十体で一斉に攻撃したら何階の敵まで対応できるのかわからない。三階分降りた感じだとそんなに強く変わってはいないが、少し強いという感じだった。ここならまだ数で押し切れるとは思うが万が一もあるので確認してみよう。
全員に注意してからトウヤが降りた、地下七階に降りてすぐに空中で足場を作る。相手は天井にいるこっちには気付いていないようだ。
剣と盾を持った三メートルの骸骨のモンスターだ。その名もスカルナイト、ソウルスラッシュという剣に魔力を乗せて斬撃を飛ばす技を使うらしい。しかもそのスカルナイトの後ろには次の階に向かう階段がある。今までの経験からだと階段前に陣取っているモンスターは一体でいる代わりに少し強い。
腕試しにはちょうどいい相手かもしれない。物理無効を持っていないのでダメそうならトウヤやラピスが手助けを出来る。
「さあやってくれ、ジャック達」
「「「「「カボ~!!」」」」」
一斉にジャック達が落下していく。そして火の玉を打ち出す。スカルナイトが剣を振り上げた、剣が輝きだす。
その剣の前の空間を通行不許可に変化させた。剣がそこにぶつかり、ソウルスラッシュの発動がキャンセルされた。ついでに剣の周りを動けなくしたら、一方的な戦いとなった。あっさりとジャック達がスカルナイトを倒した。
ジャックがスカルナイトに与えてた一発のダメージ量からトウヤはジャックを十体ずつ、二組に分けて地下七階のモンスターと戦ってくるように指示を出した。そうしてトウヤは部屋に散乱されているスカルナイトが倒したであろう冒険者たちの持ち物だったのだろうと思われるカバンを漁りだした。ポーションだと思われる瓶や財布が入っているが、それをカバンごといっきにアイテム作成の材料にしてしまった。まとめればより良いものと交換できるかと思ったからだ。
「魔法攻撃出来る武器ある?」
「はいこちらに」
炎や雷、氷など普通の攻撃にプラスで特殊なダメージを与える武器が、剣、槍、斧、矢など揃えられていた。
護身用に短剣の使い方なら習った事があるので、雷の短剣をトウヤは選んだ。この剣はたまに敵を麻痺させる事もあるらしいので、それもこの短剣を選んだ理由の一つだ。
さて物理じゃない攻撃のある武器も作って、まだ何個かカバンが落ちている。何か他にアイテムを作ろうとやってみた。
防具とかもあるといいかもしれない。
「特殊な能力のアイテムを表示」
少しアイテムの数が減ったが、まだ大量にある。
とりあえず最初のアイテムの説明を見てみた。
「飲むと一定時間攻撃力が上がるお茶か、絞り込み項目効果が永続的、または装備中ずっと続くもの」
消費アイテムで一定時間しか効果のないものだといざって時に役に立たない可能性が出てくる。安全のためには永続的な効果が望ましい。
だいぶアイテム数が減ったようだが、さらに絞り込むにはもっと具体的な事を言わないとダメだろう。例えば盾に限定してみるとか。しかし今何が必要かわからないので、とりあえず説明を見て考え付いたら探してみる方向で行く事にする。
「インカム? 通信用のアイテムか」
耳につければ同じアイテムを持つ者と通信が出来るアイテムらしい。複数人がこのアイテムを持っている場合、個人や団体を指定する事で通信先を選べるようだ。
「これならラプスお姉ちゃんと別行動でもいいかもしれない」
離れていても使えるのなら、ラピスにジャックを十体つけての別行動も出来る。それならさらに効率よく動けそうだ。
「このアイテムの能力は同じで形の違うものある?」
トウヤが見つけたのはヘットフォンからマイクが伸びたものだった。これをラピスに付けてもらうのはどうだろうか、女性だしもっと可愛らしいデザインのものでもあればそっちにしてあげたい。
「候補はこちらになります」
「お、これなんかいいかな」
トウヤは候補の中から八面体の水晶が吊り下がっているイヤリングを選んだ。手の中のアイテムが今選んだものに変化した。
「ラピスお姉ちゃんこれあげるよ」
「あら綺麗な水晶、ありがとねトウヤ君」
ラピスはさっそくそのイヤリングを左耳に付けた。
「どう、似合う?」
「うん、いい感じだよ」
「トウヤ君からの初めてのプレゼント、大切にするね」
けっこう喜んでもらえたようだ。これなら通信目的とか関係ない。このデザインを選んでよかったとトウヤは思った。
「さてと、僕はどうしようかな?」
まだ落ちてるアイテムはあるので自分用のインカムを選ぶ。黒い片耳用の目立たないタイプを選んだ。動いても落ちないように耳に引っ掛けるデザインをしている。
「そのイヤリングと、このアイテムで通信ができるみたいなんだ。実験してみるからここで待ってて」
「通信? わかったわ」
トウヤは部屋の隅まで走っていった。ここなら普通の声で話しても向こうに声は届かない距離だ。さっそくインカムに触れ、通信をしてみた。インカムから豆粒大の小さい球体が浮かび、トウヤの口元に移動した。これがマイクになりトウヤの声を拾うようだ。
「聞えるラピスお姉ちゃん?」
「ええ、聞こえるわよ」
ラピスが向こうで両手で丸を作っている。通信機としてちゃんと使えるようだ。
「あっ!!」
「どうしたの?」
その時、トウヤに異変が起きた。
「うん、レベルが上がったんだ。ジャック達が頑張ってるみたい」
なんとレベルが1上がったのだ。支配者の効果で一キロ以内の配下が敵を倒せばトウヤ自身が何もしなくても経験値を稼げることが確認できた瞬間だった。これならば寝ているだけでもレベルが上がる。
「魔王って本当にとんでもないな」
こうして通信機を手に入れた二人は三日目から別行動をとる事にした。
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