第19話 スピリットファーム 5
トウヤの作戦は簡単だ。支配者の能力の中にはモンスターを強化する他に倒したモンスターを自分の配下に加える能力もある。その力を使って敵を味方にし、つでに自分もレベルを上げる事も出来れば最高だ。
「問題はどこまでが支配の効果に入るかだよな。直接倒さなければいけないのか、支配者が発動している範囲内でモンスターが倒されればいいのか」
前者だったら大変だ。トウヤには物理攻撃しか出来ないので、幽霊系のモンスターは倒せないからだ。
「支配者の能力が発動している状態で、モンスターを倒した戦闘に参加さえしていれば大丈夫です」
ナビの回答に安心した。そしてトウヤはダンジョンに入った最初の日に出会ったカボチャ頭のモンスター、ジャック・オー・ランタンを相手に支配者をオンにして戦いを始めた。このモンスターは火の玉を飛ばす魔法を使う。これをキューブの力で防御して自分やラピスを守れば、トウヤも戦闘に参加したことになるので、その後でトドメはラピスに任せた。
核を回収し、あとはジャックの復活を待つだけだ。その間に同じ手順をふんで他のジャック・オー・ランタンを狩っていく。攻撃を防いでいただけなのと、ラピスとジャックのレベルがラピスの方が上すぎるので貰える経験値は大したことが無く、その日二人のレベルが上がる事は無かった。階層は3階下ったのだが、ジャック以外に遠距離攻撃のある幽霊系モンスターには出会えなかった。後はリビングデットやリビングドックというリビングデットの犬バージョンのようなトウヤでも倒せるゾンビ系モンスターもいたので、こっちはトウヤも直接戦闘に参加して倒していった。
一日後、ジャックの軍団が復活しトウヤの配下となった。数はニ十体ほど。ジャックは体を持たないので核になる宝石を持ち歩けて、トウヤの近くで復活したが、リビングデット達は体の中に核を残さなければ復活しないのでその場に放置してある。向こうも今頃復活している事だろう。
「おめでとうございます。モンスターを従え、トウヤ様の魔王ランクが1に上がりました」
最初のジャックが復活したタイミングでナビがトウヤに魔王として成長した事を知らせる。
「フラグチェックが成長し、フラグツリーを確認出来るようになりました」
新たに得た能力をナビが順番に伝えだす。今はラピスが周囲にモンスターがいないか探しに行っていて暇なのでちょうどいい。トウヤは今の内に新能力を確認する事にした。
「フラグツリー?」
「現在発生中のイベントから一つ先に発生しそうなイベントを確認できます」
説明だけ聞いてもよくわからないのでとりあえず確認してみる。現在発生しているイベントは三つ。
「竜の修行」――タンザナイトと修行しつつ友好を深める師弟イベント。
「お姉ちゃんと二人旅」――ラピスとゲペルの街へと行き、友情や愛情を深めるイベント。
「囚われの妹」――スピリットファームに向かいネクロマンサーキザキと戦い、攫われたリヨナを救うイベント。
トウヤは取り合えず竜の修行を確認してみた。頭の中で「フラグツリー」と呟くと、長方形の枠内に竜の修行と書かれた映像になった。そこから上に向かい二本の線が伸びている。一本は丸くなり竜の修行の反対側に繋がっていた。もう一本は上に設置された別のイベントに繋がっている。トウヤは丸まっている線を触ってみた。
「このルートの条件は修行の終了です」
その線から伸びるイベントに向かう方法をナビが伝えてくれた。もう一つの線はどうなのだろうかと、トウヤはもう一つも確認してみた。
「このルートの条件はトウヤ様が気を自由に操れるようになる事です」
(なるほど、だから一本は竜の修行に戻っていたのか)
つまりこの条件を満たすまでは同じことを繰り返す事になるのか。ちなみに次はどんなイベントなのか確認すると『竜体術の修行』と書かれている。たぶん触れば簡単なイベント内容も確認出来るだろうが、やめておいた。そのイベントタイトルだけで予想が出来たからだ。
次に囚われの妹を確認したがこれも丸まっている線が一本あった。ループする条件は何かと確認してみる事にした。
「このルートの条件はリヨナの奪還とネクロマンサーキザキの生存です」
つまりキザキを倒さずにリヨナを取り返しても、また誘拐される未来しかないというわけか。そしてこれを確認して一つの事に気が付いた。
「もしかして、このループがある間はリヨナは生きているって事でいいのか?」
リヨナが生きていないのなら取り返す事も、また誘拐される事も不可能だ。だからこのイベントは彼女の生存を意味しているのではないか。それなら少し気持ちが楽になるのだが。
「はい、イベント発生の可能性が消えればそのルートは消えます」
「それじゃ、このルートが消えたら教えてくれ」
ルートが消えればそれはリヨナが死んだという事。いつまで生きているかはわからなくても、こうしておけば生きている事だけは確認出来るので安心できる。
「わかりました」
「他にはどんなイベントに……『トウヤの死』って縁起悪いなこれ」
気になったので行き方を確認してみた。わかればそれを避ける事も出来るかもしれないからだ。
「このルートの条件はネクロマンサーキザキに敗北する事です」
それはそうか、負ければ殺されるのは道理だな。でも戦わない訳にはいかない。
「それと『悲しい報告』か」
「このルートの条件はネクロマンサーキザキの討伐とリヨナの死です」
「あ、そりゃ悲しい報告になるね……」
このルートも避けたいな。後は『英雄の帰還』だ。
「このルートの条件はネクロマンサーキザキの討伐とリヨナの生還です」
結局キザキと戦わないルートは無いようだ。この英雄の帰還がもっとも良さそうなルートだ。そのためにはキザキを倒せる強さが必要なのだけど。
「他に増えた能力は?」
ランクが上がって手に入った力を確認する。その中にキザキに勝てる力もあるかもしれない。
「アイテム作成の能力が追加されました」
すぐにステータスを確認する。
『アイテム作成』……手の中にあるアイテムを同価値の別のアイテムに変化させる。
文字だけ読んでもわからないので、こっちも実際にやってみる事にした。その辺に落ちていた何かの尖った骨を拾ってみた。これも頭の中で「アイテム生成」と呟く。
尖った骨を見つめていた視線に幾つものアイテムの写真が映し出された。これはステータスの表示のように実際に出ているのでなく、トウヤにだけ見える映像のようだ。
これが尖った骨と同価値のアイテムのリストなのだろう。刃がボロボロの錆びた剣や同じようなボロボロの斧や槍、木で出来た小さい盾や奴隷の服、武器以外にも水やパンなんかもある。
「ま、これでいいか」
パンにしてみた。ほかほかで柔らかい。ちぎってみたら中身も普通のパンだ。一口食べてみても間違いなくパンの味だ。さっきまでこれが骨だったなんて信じられない。
「でも同価値って誰が決めてるんだ?」
人によって価値は変わってくる。この何の骨ともわからないモノとパンが本当に同じだろうか?
何も食べるものが無ければ宝石よりパンの方が価値があるし、腐るほど食べ物があれば道端の石と同じかもしれない。ではどういう基準でこの骨がパンと同価値なのだろかトウヤは気になった。
「トウヤ様の現在のランクではその情報へのアクセス権限がありません」
聞いてはいけない情報だったようだ。別にそんなに凄く気になっているわけでもないのでそれ以上トウヤは聞かないことにした。
「それと
「魔王玉?」
「これはトウヤ様の身体能力一つを10上げるか、配下の魔族を造るか、配下の魔族やモンスターを強化や新たな能力を与えるのに使えます」
二等身のナビが何か黒くて丸くてモヤモヤしたものを持っている。
「すぐに使いますか?」
「いや今はいいや」
別に急いで必要なものだとは思えないので、時間のある時にでもゆっくり使い道を考える事にした。
「では魔王玉を使うときは私に声をかけてください」
「わかった。頼むよ」
ランクアップで増えた能力の報告はこれにて終了。トウヤはキザキを倒すためのレベル上げと仲間集めを再開する。
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