第8話 コロウ山のタンザナイトとラピスラズリ 3
トウヤが目を覚ますとそこは洞窟の中だった。大きな葉っぱを敷き詰めて作られた寝床。
ここは竜族のタンザナイトの巣だ。昨日彼と戦い仲良くなって、彼の巣に案内され、そこで夜を越したのだった。
洞窟から出るとタンザナイトとその娘、ラピスはすでに目を覚ましていた。
「あ、トウヤ君起きたんだ。おはよう。もうすぐご飯できるからね」
竜の姿のラピスが火を吐いてトウヤと同じ大きさの鳥を焼いていた。
「ラピスから聞いたぞ、二人でゲペルまで行くそうだな」
タンザナイトは人間の姿のままだった。なんだか頭を押さえ辛そうな顔をしている。
「タンザナイトなんだか辛そうだけど大丈夫か?」
「ただの二日酔いよ。ほっとけば治るわ」
ラピスが人間の姿でやってくる。鳥はテーブルの上に置いてあった。
「それよりトウヤ君、これ履いてみて」
ラピスが靴を地面に置いた。履いてみるとトウヤの足にピッタリとフィットした。
「どうしたのこれ?」
「昨日の鹿の皮で作ったのよ。急ごしらえの品だけど何も履いてないよりマシでしょ。街についたらちゃんとした靴を買うとして、それまではこれを使って」
「そうなんだ、ありがとう。履き心地もいいし、これなら新しい靴なんて必要ないよ」
靴を履いたまま少し歩いてみたりジャンプしてみる。違和感はない。
「それじゃご飯にしましょ。それが終わったら昨日話した通り、ゲペルに行きましょ」
(さっきタンザナイトも言っていたな。本当に説得しといてくれたんだ)
二人で出かける事にタンザナイトが反対している様子はない。単純に気分が悪くてそれどころでないだけかもしれないが。昨日の夜にラピスが説得すると言っていたが、トウヤの寝ている間にそれをしておといてくれたようだ。
「あ、その前に奴隷をオンに変えといてね」
このゲペル行きには二つの目的がある。一つはトウヤの妹、リヨナに会う事。そしてもう一つはトウヤ首に付けられた奴隷の首輪を外す事だ。そのためには一時的にラピスの奴隷になる必要があるのだ。
トウヤは言われた通りに奴隷をオンにする。自分のステータスを確認したら称号に「 」の奴隷が復活していた。それがすぐにラピスラズリの奴隷に変更された。
「うふふ、これでトウヤ君は私の物ね」
なんだか悪そうな笑みをするラピス。本当に信用して大丈夫かトウヤは少し不安になった。
「これからは私の事をラピスお姉ちゃんと呼ぶのよ、ご主人様からの命令なんだから」
そういってトウヤの鼻先をチョンとつつくラピス。命令と言われて体に電気が走るような痛みが一瞬した。
「わかったよラピスお姉ちゃん」
すぐに主の命に従おうと体が動く。別にお姉ちゃんと呼ぶくらいなら何も問題ないのでトウヤは抵抗なく発言した。
「きゃ、お姉ちゃんだって……。私、こんなカワイイ弟が欲しかったのよ~」
たまらずラピスがトウヤに抱きついた。豊かで柔らかな胸に頭が埋もれ息苦しい。新鮮な空気を求めてトウヤは頭を動かした。
「あぅん、そんな所で暴れちゃだめよ」
ラピスが甘い吐息をこぼす。
「おい、なんだかトウヤが苦しそうだぞ」
タンザナイトはテーブルの近くに座り水を飲みながら、そんなラピスに伝えた。
「まぁ、ごめんね。お姉ちゃんちょっと興奮しちゃって。大丈夫だった?」
「なに、男なら誰でも喜ぶような天国を味わえたんだ。気の乱れもないし大丈夫だろう」
「大丈夫だよラピスお姉ちゃん。むしろありがとうと言うべきか……」
最後の方は小さく言う。タンザナイトの言う通りだ。別に怒ってはいない、苦しくて少ししかその感触を味わえなかったことがトウヤは少し残念だった。
「なんだか二人で行かせるのが少し不安になってきたな。やっぱり俺も……」
「お父さんは山の主としてのお仕事があるでしょ。例え一日でもこの地を離れちゃだめよ」
「ふむ、トウヤ、ちょっと来い」
タンザナイトが手招きする。なんだろうかと思いつつトウヤはそちらに向かった。
「ラピスはだいぶお前に気を許しているようだ。もしお前が若い衝動に駆られて間違いでも犯したら……」
やはり娘が男と二人で旅に行くのは不安なようだ。そこでトウヤに先にクギを刺しておくつもりのようだ。
「その時はちゃんと責任持ってラピスを嫁にしてこの山で俺を養うんだぞ。わかったな」
もしかしてまだ酔いがさめていないのだろか。それともラピスは酔っぱらった時のことを忘れていると言っていたが、昨日の話をちゃんと覚えているのだろうか。なんだか昨日と同じ話の流れだ。
(普通は娘に手を出したら命は無いぞとかじゃないのか)
まさかの親公認とは。それだけトウヤを気に入っているという事か。トウヤは発生中のイベントに目を向けた。「竜の宴会」はいつの間にか終了していたようで消えている。残っているのは「お姉ちゃんと二人旅」、ラピスとの恋愛イベントだ。
このタンザナイトの発言もそのイベントの一部なのではないかとトウヤは思った。
「ねえ、二人でこそこそ何話しているの?」
「なに、戻ってきたらまた戦おうって誘っていただけだ。気にするな」
タンザナイトが誤魔化しの一言を返す。
「そうなの? トウヤ君ゴメンね、こんなお父さんで」
ラピスはそれを信じたようだ。気のニオイで嘘を判別できるはずだが、タンザナイトはタンザナイトで気を操る事が出来るの誤魔化せたのだろう。
「いや、修行としてならタンザナイトと戦ってもいいよ。タンザナイトには物足りないかもしれないけど……」
魔王である以上、タンザナイトのようにケンカを売ってくる相手はこれからも出てくるだろう。だからこれはトウヤの本音だ。そしてさっきの会話と全く関係ない返し返しなので嘘をついて気が乱れるなんて事も無いだろう。
「おう、嬉しい事言ってくれるじゃないか。だったらトウヤには俺の全てを叩きこんでやる。しっかり強くなって、いつかは俺を満足させる戦いをしてくれや」
タンザナイトがトウヤの肩に腕を回して頭を滅茶苦茶に撫でまわす。
「タンザナイト師弟イベント『竜の修行』発生。新たな称号『タンザナイトの弟子』を手に入れました」
トウヤは自分のステータスを開いた。そして称号の変更をしたいと思う。トウヤが持つ三つの称号「0と1の魔王」「ラピスラズリの奴隷」「タンザナイトの弟子」が表示された。
「どの称号を指定しますか?」
二等身のナビが現在表に出ている称号「ラピスラズリの奴隷」の横で指を指しながら訪ねた。
(旅の行き先を考えたら別にこのままでいいか)
増えた称号を確認したかっただけなので変更は無しだ。
「また御用があったらお呼びください」
なんだかナビが寂しそうにしている。
(悪い事しちまったかな?)
その事にトウヤは罪悪感を感じてしまった。
(あとでナビに仕事を頼もう)
それで彼女が満足してくれるかはわからないけど何もしないよりはマシだ。
「おう、なんだか気分がいいな。ラピス酒持ってきてくれ。祝杯だ、とっておきを頼むぞ」
「もう、さっきまで二日酔いで苦しそうだったのに朝からお酒?」
ラピスはあきれ顔で言われた通りにお酒を取りに洞窟の奥に行ってしまった。しばらくして樽を片手に戻ってくる。そして三人で朝食を食べ始めた。
タンザナイトも今回はお酒を制限したようで、悪酔いせずにすんだ。
「それじゃ気をつけて行ってくるんだぞ」
「うん、お父さんも私が居ないからってお酒を飲みすぎたりしないでね」
「大丈夫だ。それとトウヤ、戻ってきたらみっちり修行だからな。お前もちゃんと帰ってくるんだぞ」
「うん、しゃ行ってきます」
ラピスの背に乗ってトウヤはコロウ山を後にした。目指すはゲペル、妹に会うために向かう。その先に波乱が待っているとも知らずに……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます