第4話 0と1の魔王、その名はトウヤ 4
トウヤの投石が当たったゴブリンはそのまま絶命した。
「ゴポー!!」
仲間がやられて怒っているようだ。
(あれだけで倒せるのか、身体強化ってやっぱりすごい)
襲ってくるゴブリンに石を投げながら後ろに下がる。遠距離攻撃が出来そうなのは最初に倒したゴブリンだけだったのでこの方法で安全に倒せる、でも当たれば一撃の投石だが、ゴブリンはただそこに立っているだけのカカシではない。来ると分かっていれば回避行動も取るので投石の命中率はそんなに高くはないのだ。だから孤立しているゴブリンがいれば接近戦も仕掛けて殴り倒す。こうして戦闘開始から数分後、トウヤは無傷でゴブリン達を倒す事に成功した。
ゴブリンとの戦闘でトウヤはレベルが3になったが、新たに能力が増える事は無かった。ゴブリンから核を抜き取る。これは全てのモンスターが持っているもので、これを壊さないとモンスターは時間経過で何度でも復活してしまうのだ。大きさは小石程度の赤い宝石のようなものだ。レベル1のゴブリンなのでこの大きさだが、強力なモンスターほど大きな核を持っているらしい。
この核を兵の詰め所や城なんかに持っていくとお金と交換してくれる。この核は魔力の塊で、国にはそれを利用する装置があるらしい。それで強力な魔族が襲ってきた時の防衛のため核を蓄えようとする貴族は多いのだ。
また、核をこのまま放置してゴブリンを復活させれば支配者の効果で配下になるのだが、支配者の能力をオフにしている現状では意味がないようだ。
二束三文の価値でも無いよりましだ。指で挟んで少しヒビを入れておく、これで核は機能しなくなる。そして壊した核はズボンのポケットに入れておく。モンスターによっては体が武器の素材として売れたりもするのだが、ゴブリンではそれがない。持っていた弓矢やこん棒は荷物になるだけなので置いていくことにした。
その後はステータスの赤い枠のおかげでモンスターを避けて移動が出来たので戦闘する事も無く森を抜ける事が出来た。
森の先には断崖絶壁。はぼ垂直に伸びる山の岩肌だった。
「これを登るのか?」
いくら身体能力があがっているからってそれは無茶だ。トウヤは素直に山の周りを回る事にした。もしかしたらどこかに登りやすい道があるかもしれないからだ。そして高い所に行けば、そこから遠くの村を見付ける事が出来るかもしれない。
「お、ここはさっきよりは登りやすそだぞ」
しばらく歩いてみると斜面が先ほどよりだいぶ緩やかな場所に出た。それでも急勾配には変わりないのだが、トウヤはそれを飛ぶようにピョンピョンと登っていく。
「意外といけるもんだな」
頂上まではまだ距離があるが平坦な場所に出たのでいったん休憩。
「村はなさそうだな……」
見える範囲には森と湖、後は山くらいしかない。屋根もみえるがあれはさっきまでトウヤが居た屋敷のものだろう。
「反対側に村があればいいんだけどな」
もしくはもっと高い場所から見れば見つかるかもしれない。とりあえず頂上を目指して再び登り始めた。
「ほう、珍しく人の気配がして来てみれば……」
突然巨大な影がトウヤの上にやってきた。見上げるとそこには竜がいた。縦長の瞳孔がこちらを見つめている。
「この山に何か用か? それともただの迷子か、小僧?」
トウヤは竜のステータスを確認した。タンザナイト、レベルは48、黄色で覆われているから魔王軍には所属していないようだ。
(それもそうか、竜って魔王とは敵対してるもんな)
竜族は人間を造った神とも、モンスターや魔族を造った魔神とも違う龍神と呼ばれる神から造られた生物だ。昔話の中では竜が勇者に力を貸し、共に魔王と戦った話がいくつもある。
心優しく強い人間の味方。それならゲペルの場所を聞けば教えてくれるだろうか。
「ん? お前……魔王か?」
そう、竜は人間の味方だ。そしてトウヤは現在、魔王だった。彼等の敵にあたる存在だ。
「魔王なら俺と勝負だ!!」
タンザナイトが大きな口を開けて叫んだ。風がトウヤを襲った。ふらついて足を踏み外しそうになる。
「いやまって、こんな場所じゃ戦えませんって。話し合いませんか?」
なんとか落下するのは耐えられたが、ただの声だけでこれなのだ、本当の戦いになったら今度はトウヤの方がゴブリンのように簡単に殺されるだろう。それはもう、何も描写する事のないくらいくらいあっさりと。
だから話し合いで解決できないかとトウヤは考えた。自分が魔王として無害な存在だと信じてもらえれば戦いを回避できるかもしれないから。
「うむ、確かにそうだな」
トウヤの言葉に少し考える様子を見せる。どうやらいきなり戦闘を仕掛けてくるような人物ではないようだ。
(これなら話し合いで何とかなりそうだな)
「オマエには羽はなさそうだ、こんな場所じゃ一方的な戦いになるな。よし」
竜は尻尾でトウヤを捕まえるとそのまま飛び出した。そして少し山の上まで行くと、トウヤを落とした。
「ここなら思う存分戦えるだろう」
そこは少し開けた平らな場所。トウヤは自分の勘違いに気付いた。相手が納得したのは話し合いの部分じゃなく、斜面での戦闘は無理だという部分。そしてフェアな戦いをするためにこの場所に運んできたのだ。
だがそれを理解したところでトウヤの置かれた状況が変わるわけではない。
(なんとかしないとな)
とりあえずタンザナイトの詳細なステータスを確認してみる事にした。そうすれば何かの突破口が見えてくるかもしれない。
(うわ、能力で視界が塞がった。何個特殊な能力持ってんだよ)
トウヤの視界いっぱいにタンザナイトの能力が表示された。何も見えないので確認するのを諦め特殊能力欄を消し去る。
単純な身体能力の数値だけを見る。一番低いのは素早さの43、一番高いのは筋力の89。後は大体60~70の間に収まっている。
(うん、ム・リ・ダ)
素早さだけは勝っているようなのでトウヤは逃げる事にした。
「まて、魔王」
タンザナイトが口から炎を吐き出した。トウヤの行き先を炎が塞ぐ。背後からはタンザナイトが近付いてくる、前にも後ろにも逃げ場はない。
「さあ、逃げ場はないぞ、力を見せろ魔王!!」
タンザナイトの爪が振り下ろされた。いつの間にか炎がトウヤの周囲を囲んでいて避けることは出来ない。
(空に跳んで逃げてもそこは竜の得意な場所。地面に逃げられればな~)
もう地面の中にしか安全な場所は残っていない。つまり回避不可能という事だ。
「足元の設定を変更しますか?」
ナビが話しかけてきた。
(そうかキューブがあった)
キューブは指定した空間の通行許可を変更する。これを使えば地面の中でも移動できるではないか。
即座にキューブを発動して下に移動した。
「なに、魔王が消えただと!?」
地面が無くなったわけではない、ただ通れるようになっただけだ。だからトウヤが落下したのをタンザナイトには消えたように見えたようだ。
「どこに消えたー!!」
そして話は物語の最初へと繋がり、タンザナイトはトウヤを探して無差別な攻撃を開始する。その攻撃の一つは地面をえぐり、トウヤの隠れる横を通過した事で、彼はタンザナイトに発見されてしまうのだった。
「見つけたぞ、魔王ー!!」
タンザナイトの炎のブレスがトウヤに迫る。
(うわ、来るな来るな)
「正面の空間を通行止めにしますか?」
緊迫感のないナビの声。何も存在しない空間でもキューブの指定としては問題ではないようだ。
通行不許可に変更すると炎はトウヤの目の前で壁にぶつかったように周囲に拡散していた。
「ほう、魔法の壁か。しかも俺の火で破壊できんとはな。魔王の持つ特殊魔法という訳だな」
タンザナイトが火を吐くのを止めた。
(便利だなキューブ。何もないところで使えるならこんなのもありかな?)
タンザナイトの足やシッポ、翼の場所を通行禁止にしてみる。
「その座標には生物がいるため能力を使えません」
ナビから否定の言葉を返された。仕方がないので場所を変更、足や翼を囲むように指定すると今度は発動した。
「なんだ、突然動けなくなったぞ?」
タンザナイトを空中で固定することに成功した。
(さてと、これで襲われる事は無くなったが、この後どうしようか……)
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