第3話 0と1の魔王、その名はトウヤ 3
部屋を捜索してみたら、ベットの上に丸めて脱ぎ捨てられた服があったのでそれを着る事にした。ズボンも服もトウヤには大きく、袖や裾にかなりの余裕があるが贅沢は言ってられない。置いてあったナイフで袖やズボンを切って長さを調整する。下着は奴隷になった時から金がもったいないとの理由から履くのを禁止されていたので無い事は我慢できる。
テーブルの上には賭けカードゲームを行っていたためかお金がそのまま置いてあったので貰っておく。あの世にお金は持っていけないし、持ち主不在の金だ。持って行っても誰も困らないだろう。この金は自分に合うサイズの服を買うのに利用させてもらうことにした。靴は無いが、そこは我慢だ。素足でも身体強化のおかげで気にはならないから大丈夫だろう。
「それにしても、あの儀式は何だったんだろうな」
あの四人組が自分を魔王にするために儀式をしてくれたとはトウヤには思えない。ではあの儀式は何を目的とした事だったのだろうか。死人に聞く事はもうできないので知るすべはないが、気にはなる。
場合によっては安全のためにこの地下室の入口を誰も通れないように破壊する必要もあるかもしれない。
「あれは魔族召喚の儀式の不完全版です。下級の魔族でも召喚し、使役する目的なのではと推測します」
ナビがトウヤの疑問に答える。さすがトウヤを魔王としてサポートするための存在だ。
「不完全って事は成功しないって事?」
「はい、あれでは何も呼べません」
(それならこのまま放置していっても大丈夫かな?)
「じゃあどうしてナビは僕の前に来たの?」
何も呼べないような不完全な儀式で、なぜナビは自分の前にやってきたのだろうか。
「あれは儀式の前にトウヤ様に飲まされた魔族の肉片を通して魔神様が送って下さったのです」
「え……魔族の……肉片……?」
なんとなくで聞いてみた事にたいしてとんでもない事を聞かされた。まさかあの黒い塊が魔族の肉片だったなんて。まだ体内に残っているのかと思うと吐き気がしてきた。
「大丈夫です。私が送られた段階でその反動に耐えきれずに消滅しました」
(よかった。もう体内に残ってないんだ)
体の中に魔族の肉が残っているなんていい気分ではない。何か体に良くない影響でもあったら大変だ。突然角が生えたり、狂暴になったり、肌が岩のようになるとか。
もう体内に残ってないならそんな事を不安に思わなくても大丈夫だろう。
とりあえずここにもう用は無いので屋敷から出る事にした。行き先はどうしようか。
妹が元気にやっているのか気になるので確認に行ってみたいが、現在自分がどこにいるのかがわからない。
「リヨナを買っていたのはゲペル街のニッチという商人だったか。ナビはゲペルの場所わかんない?」
「トウヤ様の現在のランクではその情報へのアクセス権限がありません」
意味不明な回答だ。
(わからないのならばしょうがない)
トウヤは森の中を歩き始めた。どこかの村にでも出られれば、ゲペルの場所を知る人物か地図が手に入るかしれない。ダメでも近くの村の場所を聞いて、そこで聞き込みを繰り返せばいいだろう。
奴隷の称号は能力調整でオフにしておいたので人に会ってもその人の奴隷にならずに済むだろう。首輪は外れなかったので、こっちは正式に奴隷解放されるまでは外すのを諦め、人に見られないように切った袖をマフラーのようにして隠す事にした。
「そのランクって何?」
「魔王としてのランクです。現在のランクは0、これは魔王としての行動をすると上がっていき、ランクが上がると魔王としての能力が強化されたり、新たな能力を手に入れられたりします」
魔王としての行動とはやはり殺し、壊し、奪うような行動なのだろうか?
今の所魔王として持っている特技は五つ『身体強化』『支配者』『能力調整』『フラグチェック』『キューブ』だ。
『フラグチェック』……現在発動中のイベントを見る事が出来る。
『キューブ』……指定した空間の通行可能、不可能を切り替える。
フラグチェックは使ってみたが、現在発動中のイベントは無いとナビに言われただけだった。キューブはトウヤの両手を広げたくらいの大きさの正方形の空間を指定して、そこに壁があっても通れるようになるし、逆に何もない空間を指定て通行不可にすると通れなくなるとうい不思議な能力だ。
ちなみに、さっきからトウヤが行っているステータスの確認だが、これは能力名もそのまま『ステータス確認』といい、魔王とは切り離され人間トウヤの能力欄に載っていた。
魔王になる前には持っていなかった能力だがナビの説明によると普通の人間でも持っている能力なのでそうなったのだそうだ。魔王と括りが違うので、こっちは魔王ランクが上がっても能力強化される事はないのだろう。
「ゴポ~!!」
トウヤが自身の能力を眺めながら歩いていると、草影から一体のゴブリンが現れた。
(モンスターだ、逃げな……)
「いや、『支配者』をオンにすればいいのか」
支配者の効果でモンスターから襲われないはずだ。トウヤはそう思いオンにした。
「ゴポ?」
ゴブリンの気配が変わった。首を傾げトウヤを見ている。トウヤはステータスウィンドを閉じゴブリンの様子を見ていた。
「ゴポ~~!!!!!!」
ゴブリンの目が鋭くなった。木の棒を構えトウヤに飛び掛かる。その表情は怒っている様子だ。
「支配者の効果ないじゃん、ナビぃ~」
ゴブリンの攻撃を慌てて避ける。
「あのゴブリンはすでに別の魔王の配下と予想。ステータスを確認ください」
ゴブリンのステータスを開く。
ゴブリン、レベル1、力の魔王カイリキーの配下
(たしかに既に別の魔王の配下のようだ)
「他の魔王が現れたので自分の王の支配地が荒らされると思い警戒しているようです」
「ゴポポッ!!」
ナビの声はトウヤにしか聞こえないので、そんな事はないのだが、ナビの説明を肯定するようようなタイミングでゴブリンが奇声を発する。
攻撃力は十二だが、後は一桁だ。これなら今のトウヤなら全く脅威じゃない相手だ。そう思ってトウヤは油断していた。
「トウヤ様、増援です。攻撃が来ます」
ナビが警告する。半透明のステータスの向こうに矢が迫ってくるのが見えた。慌てて画面を消して、迫ってきた矢を素手で受け止めた。
(危なかった、ステータスのせいで視界が塞がれ攻撃に気付けなかったよ。次にモンスターに遭遇した時はステータスを開かないように、いやでもそれだと誰かの配下なのか確認できない。支配者をいちいち発動させて効果を確認してたんじゃ効率が悪すぎるし……)
「ステータスの簡易表示をいたしましょうか?」
どうしたものかと考えていると、ナビが解決案を提示してくれた。
「そんな事出来るのか?」
視界の隅に二等身キャラのナビが現れガッツポーズをしている。
「可能です。トウヤ様をサポートするのが私の存在理由ですから」
ガッツポースの背後にキラキラしたエフェクトが発生している。ナビのやる気が伝わってくるような演出だ。
「名前とレベルを表示、それと生命力を緑、魔力を紫のバーで表示。相手の周囲をトウヤ様の配下を青、他の魔王軍に所属していれば赤、無所属を黄色で囲っておきます」
さっそくステータスを表示してみた。それぞれのゴブリンの頭の上に名前とレベル、それと二色のバーが表示されゴブリンの外側を赤い幕が覆っていた。
これならステータス表示に邪魔されずに済みそうだ。しかも木の上に隠れているゴブリンも赤い幕で覆われているので居場所がバレバレだ。さっきの矢を放ったのはあの隠れている奴なのだろう。
「ありがとうナビ、助かったよ」
礼を言いながら隠れたゴブリンを拾った石を投げて打ち落す。そしてトウヤとゴブリン達による本格的な戦闘が始まった。
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