魔導師は見つける

 


 コンコン


「お客様、お食事の用意ができました」


「ん、ああ、すぐ行く」


 仮眠をとるつもりだったが、すっかり熟睡していたようだ。眠気がまだ残っている。


 食堂に行くとテーブルは宿泊客でほぼ満員になっていて相席を頼まれるほどだった。


 夕飯のメニューは鶏肉のシチューと黒パンだった。黒パンは硬かったが隣の席の人に教えてもらったスープにつける方法で食べるとパン柔らかくなりシチューの味と合っていて美味い


 シチューの方も具材が沢山入っていて、転生前のシチューより美味しく感じる。


 ガッツ……ガツ


 大きな音が隣から聞こえる

 この咀嚼音は聞いたことがあるぞ。しかもつい最近に、隣を見るが器で顔が隠れて見えない、机から体を乗り出して覗くと。


  いた!ミーアだ!


「おまえミーアか?なんでここにいるんだ!?」


「うーあさん!」


 ミーアは口いっぱいにスープとパンを含みながらモゴモゴ喋っているが、何を言ってるか聞き取れない。


「喋りながら話すなよ、ほら水飲むか?ゆっくり飲めよ、ゆっくりー」


「ゲホッ、ゲホッ、すいません、でもなんでユータさんがここにいるの?」


 ミーアはむせてしまい目が涙目になっている。


「たまたま良さげな宿を見つけてな、飯も美味い、ベットも柔らかい、最高の宿だ!」


 しかしこの宿は一泊二日7000zと高くはない値段だが冒険者なりたての15歳にとっては痛い出費のはずだ。


「こんな宿に一カ月も連泊できるなんて、ミーアはお金持ちだな。」


「いや、私がここに止まってるのは理由があって……」

「この宿は私、ミーアの姉のリーナが経営してるのよ!」



 おお、会話の途中で急に金髪の女性がツインテールを揺らしながら話しに割り込んできた、ミーアの姉?人のこと言えないがミーアも家のことは何も教えてくれなかったな


 身長は俺と同じぐらいの175センチくらいだろうかミーアは160くらいなので凸凹姉妹だ



「あなたがミーアのお姉さんですか?」


「ええ、そうよ私と夫のドウヤの2人とあと何人か従業員を雇っているの、経営してるのは私とドウヤだからミーアは特別にタダで住まわせてやってるのよ、もちろん収入が入るようになったら返してもらうけどね」


「おねーちゃん話に入ってこないでよ!私はユータさんとたーいせつなお話をしてるんだから」


 いや話の内容は空っぽだった気がするが……


「だったらなおさら聞かなきゃね!

 そこの少年は妹の未来のお婿さんなんだからさ」


「変な冗談言わないで夕飯作ってなよ、ほらあそこの人の皿空っぽだよ!」


「変な冗談とはそれこそ冗談だよ、さっきだって宿に戻るなり話しかけてきたと思ったらユータさんとか言う人に魔法を教えてもらったって自慢しにきたじゃないか、

 それもカッコイイ、カッコイイって、もしかして……

 ひ・と・め・ぼ」


 ガン!


 ニーナの頭にミーアの魔導師とは思えない威力の鉄拳が飛ぶ

「う、ううう……」


 ミーアは唸り声をあげるリーナのツインテールを掴みながら厨房に消えていった。


「うちの姉がすいません、すいません」


 頭をヘッドバンキングのように振って謝ってくる。


「いや、俺は迷惑になってないから、大丈夫だ、さっきリーナさんは何を言いかけてたんだ」


「さ、さあ?リーナたまにおかしなこというの。気にしないでおいて」


 わざとらしく腕をWの字みたいにして首を振っている


 夕飯も食い終わったことだし寝るか

 明日も早い


「俺は先に部屋に戻るから、おやすみミーア」


「私も一緒に行く、お姉ちゃんがユータさんの部屋は私の部屋の隣って言ってたから」


「そうなのか、じゃあ一緒に行くか」



 部屋の前を見ると付けっ放しだったはずの電気が消えていて、廊下もさっきより光ってる。とてもマメだな

 リーナさんの夫、ドウヤさんが暗躍してるのだろう


「今度こそおやすみミーア」


「ま、待って、私まだユータさんのこと全然知らない、ユータさんも私に姉がいるなんて知らなかったでしょ

 今後魔法を教えてもらう仲なんだからさ、まだ寝る時間でもないし、少し話さない?」


「別にいいけど、どっちの部屋で話すんだ?」


「誘ったのは私だし、こっちの部屋に来て」


 うおぉーーこれから俺は女の子の部屋に入るということでいいんのか?いいんだな!俺はたまに女性と話すとき性格が一変してしまうのだ。ミーアの後を追って部屋に入る。



「では、しつれい、しまーす」


 これぞディスイズ女の子って感じだな

 壁紙は薄いピンクで、ベットの上には

 デフォルメされた大きな竜の抱き枕が置いてある。

 普通に欲しくなるくらいに出来がいい。あといい匂いがした。


「ベットの上にでも座っといて」


 背を向けながら、どこに座ればいいか戸惑っている俺をフォローしてくれる、お茶でも出してくるのだろうか


「わかった、結構綺麗じゃないか、これは部屋に合わないかもしれないがな」


「そのドラちゃん、じゃない!ぬいぐるみは市場で安く売っていて可愛かったから買ったの」


「ふ〜ん、これドラちゃんっていうのか、ほらドラちゃん、あそこで飼い主様がお茶を淹れてるぞー」


「もう!からかわないでよ!」


 口調は怒っているが顔は今にも火を吹き出しそうなくらい真っ赤だ

 

「冗談は置いといて本題に移ろう

 昼に言ったお互い情報と言ったら名前と職業、年齢くらいだしな、たしかに何日か指導をする身としては物足りない。」


「うんうん、私もそう思ってさそったの!私は4人家族の妹、さっきも言ったけどニーナは私の姉


 お姉ちゃんはここで宿を開くため、私は冒険者になるためこの街に来たから、家族は別の場所に住んでるの」


「そうなのか、俺は両親が小さい頃に死んでしまってな、親の顔も覚えてないんだそこからは孤児院で育って15歳で生きるため冒険者になった感じだな」



 どこかにありがちな話で取り繕うが嘘をつくのはあまりいい気分はしないな

 でも「俺ぶいあーるげーむって言う

 仮想空間体験娯楽電子機器でこの世界に来たんだ」キリッ

 なんて言っても信じてくれるわけないし……仕方がない。そう自分に言い聞かせる。



「私聞いちゃまずいこと言いました?すいませんユータさんのことが知りたかったんです」


「いや、気にしないでくれ、親というものの感覚が分からないからいなくなったという事実が俺の中にあるだけだ、しかも孤児院の仲間は全員いいやつだったしな

 そんなことより他に聞きたいことはあるか?」


「そうなんだ……じゃあユータさんはなんでこの街に来たの、ここは初級の冒険者しか来ないし来るメリットがないと思うんだけど」


「それはプラント大森林の中に超大量の経験値を得ることができる場所があるって聞いたからだ」


 これは本当にある、森の中で1番でかい木に全ての属性の魔法を与えると、地下への階段が現れる。中には雑魚モンスターがいるて大体レベルが1から200くらいまで上がる経験値を得ることができる

 魔法の指導が終わったらミーアと一緒に行くつもりだ。


「さすがにそんな場所ないでしょ、

 あったらとっくに誰かが見つけてその噂は世界中に広まってるよ」



 残念だがミーア隠し要素というのは理不尽の連続なんだ、ゲーム中ならまだしも、この世界でたまたま1番大きい木にたまたま全属性の魔法を打つなんていう偶然起こるはずがない

 しかも序盤の、この街で全属性の魔法を使える者なんて用事のあった高レベルの冒険者か不人気職の魔導師しかいない。



「ミーアの言うこともわかるが、一応調べとく、もし存在してたら夢が広がるぞ」


「あるといいね、私は当面レベル100が目標だから、そんな感じの敵、目の前に現れないかなー」



 そんな感じで質問を繰り返していると眠気が襲ってくる、ここで眠れそうだ、ミーアも眠そうだしここで寝てしまうか?

 いや、それはできない早く起きなければ、でも……ああダメだ……おやすみ



 チュンチュン 、チュン

「ん、ああーよく寝たな」


 鳥のさえずりを目覚ましがわりに起きる。そういえば8時に予定があったんだった。急がないと遅れてしまう。


 準備を始めようとしてベットに手を付くと柔らかな感触がある、なんだこの感触は?見てみるとそこには大きな緑色のぬいぐるみが転がっていた。


「なーんだドラちゃんだったのか」


 安心してホッとする


「ドラちゃん?!ってことはこの部屋は……」


 首を油の切れたロボットみたいに回転させる、視界に入るのは昨日寝てしまう直前に見た光景だ、下にはもちろん



  いた!ミーアだ!











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