魔導師は実験する

 


 ある少女の視点


「キャアアアア」


 オークの牙と地面に打ちつけられたダメージで私のHPは1割も残っていない、MP残量ははウォーターショットを一回分程度だ


「なんで魔導師なんて選んじゃったのー!」







 私が魔導師は初期職業中、最弱と聞いたのはちょうど職業選択を終えた時だった。


「魔導師は無いとしてどれ選ぶかなー」


「実質6択だしな」


「どうしよう魔導師選んじゃった……」


 それからは後衛は僧侶や狩人で十分とパーティーに入れてもらえないので一人で、生きることを第一にゴブリンばかりを狙いながら細々とレベル上げをしていたのに…


 悲劇が起きたのは魔力のほとんどを使い果たし、レベル上げを終えて街に戻ろうとした時だった。


 ドシン!


 家畜の3倍くらいの豚が歩いてこちらに向かってくる。

 

 オークだ!


「なんでオークがいるのー!」


 それからは防戦一方で体力も魔力もほとんど残ってない。

 死を覚悟し魔力を絞り出して最後の詠唱をする。


 〓〓〓〓〓〓 「ウォーターショット」


 鋭いナイフのような切れ味の水がオークの足を切断する。


「やった! 」


 オークの動きが止まる、逃げるチャンスだ。


「ハァ、ハァ、キャア」


 体力がもうなく魔力切れを起こしているため、足元がふらつき転んでしまう。すぐ後ろには片足のないオークが私を殺そうと這いずりながら追いかけてくる。オークも最後の力を振り絞って攻撃してくる。

 オークの牙の攻撃が当たりそうになり、死を覚悟した、その時だった。


 ◆◆◆◆◆「ウォーターショット」


 真紅のローブを着た少年が魔法を唱える

 彼の詠唱は私の詠唱とは何かが違う。

 詠唱が重なって?聞こえる。


 すると彼のそばに私が出した倍ほどの水の塊が出現する。


 バシュッバシュッシュシュ


 何本もの水の直線が飛んでいきオークを切り刻んで行く、ものの数秒のうちにオークは何者か判別できないくらいの肉片へとなってしまった。私の魔法とは桁違いの威力だ。


 彼は1度の詠唱で何回もの魔法を使った。私もああなりたい!彼は何の職業なんだろう!魔導師系かな?



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 俺は《魔法語自動翻訳》について考え込んでいるとさっきの少女が話しかけてきた。


「あ、あのー、危ないところを助けていただきありがとうございます。」


 さっきは戦闘中で顔が分からなかったが、赤髪のショートカットで服装は俺と似たような紅のローブを着ている少女にお礼を言われる。俺は魔導師の見学ついでに魔法の実験をしただけなのだが……


「いや……ぜんぜん大丈夫です」


 最後に女性と話したのはいつだろうか

 緊張して声が出なくなり意味のわからないことを言ってしまう。この女性はとても可愛いし……何が大丈夫なのか……


「あんなすごい魔法始めて見ました!詠唱も聞いたことのないものだし、何の職業なんですか?私、あなたみたいになりたいんです!」


 女性に褒められるなんて数えるくらいしかない。さらに緊張が増してくる、あと可愛いし……


「魔導師だけど(特殊なスキル持ちの)」


 聞き間違えかな?今私の職業でもある最弱の魔導師って聞こえたけど。


「聞き間違えちゃったかもしれませんごめんなさい、もう一度聞いていいですか」


「魔導師です」


「えっ?魔導師って最初に選べる?」


「ああ」


「フツーの魔導師ですか?」


「さっきからそういってる」


「ええぇぇぇえ!!、だってだって魔導師って最弱の職業ですよ、私ミスっちゃって魔導師選んじゃったんですよ〜それからはパーティーにも入れてくれなくて、今みたいな事に……」


 ああ、かわいそうにやっぱり魔導師選んじゃってたか、魔導師の弱さは俺が1番理解していると思う。そりゃあパーティーには入れたくないよな。弱いもん、俺は彼女が心配になった。


「魔導師の事は少しくらい教える事は出来るけどが聞きたい?」


 女性を誘うのがこれほど緊張するとはな、ラフな口調で誘ってみるが俺の心臓は限界を超えて鼓動している。


 良心からとわかっていても側から見るとナンパだろうな。女性が危険なところを狙って颯爽と登場するところとか……



「お願いします!!」


 願っても無い事だ!恐らく魔導師界(そんなものあるのか?)トップを走る方だ…そんな人から魔術を教えてもらえるなんて……


「本当か!今は2時で、いろんな準備もあるだろうし……4時にギルドの隣のカフェに集合でどうだ?もちろん代金は誘った俺が払うから。」


 ここは男の俺が払っとく、初デートは男が払うものだと、浮気が重なり、5人に包丁で刺された経験があるプレイボーイの友達が言ってた。

 デートじゃないけど、デートじゃないけど。



「わかりました、4時にギルドの隣のカフェですね、楽しみに待っています!」




 俺は残り2体のオークを狩るため森を疾走する。以外にもそれはすぐ見つかった。それも大量に。


「これは…オークの村か?」


 100メートルくらい先の谷の向かいにオークの村を見つけた。

 村というにはお粗末な出来だがオークが集団で家を作り共同生活をしていたのだ。総勢100体くらいだろうか。かなり大きい村だ。

 今も自慢の牙で木を切る、というか破壊して家の材木を作っている。


 クソスキルが神スキルと分かってから試したい事がたくさんできた。これくらいの数がいれば十分だろう。


「では早速。」


「50体を残しすべてを切れ」

「ウィンドカッター」


 風で生成されたカマイタチのような無数の刃がオークの集落に飛んでいき、家や生えている木ごとオークに傷を与えてく。致命傷を免れた者も第2刃、

 第3刃が襲っていき最後には絶命した。


「残りの数はいち、に、さん……よんじゅうに、か」


 いくら魔法をプログラムできるからといってそこまで正確な操作はできないようだ、

 具体的な数字を指定した場合かなりの誤差があると思っておいた方がいいな。


 それにしても威力が風魔法レベル1のウィンドカッターとは思えない威力で全体攻撃とこの威力は魔法レベル7に匹敵する強さだ、


 しかもし使用魔力を上げれば威力は何倍にもできる。使用魔力は通常の50倍ほどだが、俺の魔力量はレベルが1000の状態なので1割も減らなかった。


「次は、」


「頭のみを焼け」

「ファイアボール」


 42個の赤い玉が飛んでいき、詠唱通り頭に当たる。


 今度は2体を除いて頭にファイアボールが当たった。

 体の部位は頭、胴、手、足くらいしかないから、命中精度が高いのか?

 おそらくそうだろう数字や部位を指定した時その数字の母数が多いと誤差が生まれやすいという事だ。

 ウォーターショットで小指なんかを指名したらほとんど当たらないとは思う。殺し尽くしたかな?後はドロップ品の回収だ。


「橋を架けろ」「ウォール」


 ゴゴゴゴゴゴ


 地鳴りとともに谷に橋がかかる。土魔法のウォールは本来敵の攻撃を避けるため壁を作る魔法だが、俺の詠唱によって崖の岩を使った橋ができた。


 《魔法語自動翻訳》のスキルが上がれば詠唱に対する再現度が上がり橋の手すりなんかがつくようになるのか?


 全てのオークの確定ドロップ品である牙や通常ドロップの皮などをストレージに入れた後橋を渡りデート代を稼ぐためギルドへ急ぐ


「いよいよ女の子とデートだ!!」


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