第5話 訓練
翌日。
今日から早速支援魔法の特訓です。
昨晩は結局首都にいる上級の文官さんや軍人さんに声を掛け、仕事を終えたほとんどの人たちが集まってくれました。
たくさんの人たちに祝ってもらい、とても満たされた気分になりましたね。
中でも軍人のトップであるビクウス=チャイティン将軍は大喜びでした。
この人もご想像の通り、ゴリゴリの筋肉さんです。
ビクウス将軍も僕と同じ支援魔法の使い手で、六つ星の優秀な方です。
それに力だけではなく、軍略の方も無難にこなすオールラウンダーなタイプらしいです。
あまりにも将軍が喜ぶため、父が僕の指導係についてみてはどうだ、などと言い出す程でした。
僕はサリーに指導してもらうつもりだったので、全力で拒否しようと思っていたのですが……
結局力及ばす、ビクウス将軍が僕の支援魔法の指導係に就くことになってしまいました。
サリーは攻撃魔法の遣い手なので、支援魔法自体の指導は出来ないそうです。
そう言う事なら仕方がありませんが、父は僕の猶予期間のことをちゃんと覚えているんでしょうか? 無理やり筋肉の方向に持っていかれそうな気がしてなりません。
まぁ決まってしまったからには僕も腹を括りましょう。
筋肉を付けない方向で、支援魔法のイロハを教えてもらうとしましょうか。
訓練場に赴くと、ビクウス将軍が一人佇んで待っていました。
「アルト王子、お待ちしておりましたぞ。心の準備はよろしいですかな?」
仁王立ちで腕を組み、ニッコリと微笑む将軍。
心の準備って……彼は僕に一体何をさせるつもりなんでしょうか。
「なぁに、まずは魔力の流れなどの基本的なところから始めますから心配なさいますな。王子は魔力については勉強はされてますかな?」
「はい、一応知識だけは」
座学であれば、どんとこいです。
三歳で記憶が戻った僕ですが、それからはひたすらこの世界の知識を詰め込みましたからね。
魔法の練習もしたかったのですが、五歳になるまでは魔力が安定しないため練習は厳禁だと言われてしまったのです。
だから、勉強くらいしかすることがなかったんですよねぇ。
「流石ですね。ではまず魔力溜まりを感じてもらいましょう。私が王子の体に魔力を流しますので、その変化を感じ取ってください」
「はい!」
初めての魔法の実践に、年甲斐もなくワクワクしてしまいます。
今は五歳ですから別にセーフですよね。
魔力溜まりというのは、お臍の下あたりにあると言われています。
まずは外部から魔力を流して魔力溜まりを刺激してやり、その感覚を忘れないうちに自分で動かしてみる訓練ですね。
将軍が僕のお腹に触れ、ではいきますぞ、と魔力を流し出しました。
将軍に触れられたあたりから、何やら温かいものが流れてきます。
出来れば可愛い女の子にしてもらいたかったシチュエーションではありますが、致し方ありません。
しばらくして、お腹のあたりが何だかムズムズしてきました。
これが魔力溜まりというやつでしょうか。
一度意識してしまえば、あとははっきりと感じられるようになりましたね。
「将軍、多分分かりました」
「なんと! まだ一分も経ってませんぞ。うーむ……では一度手を離しますので、今度はご自分でその魔力溜まりから魔力を動かしてみましょうか」
将軍は驚きつつも、次の指示を出してきました。
将軍の態度が少し気になりますが、まずは先ほどの感覚を忘れないうちに魔力を動かしてみましょう。
今も魔力溜まりははっきりと感じられます。
ここから魔力を動かしてやればいいんですよね?
どういう風にすればいいのか……やはりここは血液の流れをイメージしてみましょうか。
腹部の大動脈あたりから下腿に流し、そこから一度心臓に戻して、後は全身に流すイメージで。
ふむ、最初は魔力溜まりから魔力を取り出すのに少し苦労しましたが、一度流してやると後は簡単ですね。
体中に魔力が循環しているのが分かります。
意識を外すと流れも止まってしまいますが、これは慣れるしかなさそうですね。
「将軍、出来ました」
「も、もうですかな? で、では、次はその魔力を体全体に循環させてみましょうか」
「えっと、それももう出来たんですが……」
「……」
将軍が口を開けて固まってしまいました。
「将軍?」
「……ハッ! も、申し訳ありません。少々驚いてしまいました。疑う訳ではないのですが……もし循環がきちんと行き届いていれば、後は簡単なはずです。その場で軽く飛んでみましょうか。いいですかな、軽く、ですぞ」
「はい!」
魔力を循環させた状態で、少し屈伸します。ジャンプするんですから、足に少し多めに循環させた方が良いかもしれません。循環の割合を足に多めに割いてみましょう。
ではいきますよ。
「えいっ!!」
次の瞬間、景色が一気に下に流れました。
「うわっ!!」
思わぬ事態に、身体のバランスが崩れます。
そしてそのまま落下し始め、地面が近づいてきました。
――ぶつかる!!
と思わず目を瞑りましたが、将軍が上手く受け止めてくれたらしく、怪我をすることはありませんでした。
「あ、ありがとうございます」
ホッとしつつ、将軍にお礼を言いましたが、将軍は何やら苦笑気味です。
「えっと……将軍?」
「アルト様……あなたは本当に規格外な方ですな」
えーっと、どうやら何かやらかしてしまったようですね。
支援(脳筋)魔法で領地経営~領主がスローライフなんて送れるはずがありません~ @arukumoaizo
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