第4話 お願い

 さて、気持ちが盛り上がっていた時は気にならなかった訳なんですが、冷静になってみると少し恥ずかしいですね。

 前世と合わせて精神年齢は三十歳以上になっているはずなんですが、やはり体に精神が引きずられているんでしょうか。


「母上、そろそろ……」


 母は未だ若く、スタイルも良いのです。

 胸が当たって少しドキドキしてしまいます。


「あらそう? ふふ、私も少しはしゃぎ過ぎてしまったみたい。でも本当に嬉しいわ。アルト、これからが楽しみね」


「はい、頑張ります」


 九つ星とは言っても、鍛えなければただの宝の持ち腐れですからね。

 コツコツと頑張りましょう。


「うむ、しっかりと鍛えて立派な筋肉を目指すのだぞ」


「父上……」


 本当に筋肉以外に道は無いんでしょうか。

 それだけがとても憂鬱です。


「あの、小さいころから筋肉を付け過ぎると身長が伸びにくいらしのです。なのである程度成長が終わるまでは、過度なトレーニングは控えておきたいのですが……」


 前世でそんな都市伝説があった気がします。

 事実かどうかはともかく、五歳からバリバリ筋トレをするのは体に良くはないでしょう。

 あと、そんな将来は絶対にごめんなので保険をかけておきましょう。


「む、それは例の記憶によるものか?」


「はい、前世でそう記憶しています」


 そうなんです。僕に前世の記憶があることは、限られた人たちだけではありますが伝えてあります。

 三歳の時に急に記憶が戻ってしまい、僕の話し方も変わってしまったので周りから見て違和感がすごかったそうなんです。

 僕も三歳児らしく装っていれば良かったのかもしれませんが、どうしても幼児の振りをするのが難しく、バレてしまったんですよね。

 他国に知られると僕の身が危険だということで、この事実は限られた人しか知りません。

 

「そうか、ならば仕方が無いか……が、惜しいな」


 父が惜しいというのは、おそらく魔力量の強化についてでしょう。

 魔力は使えば使う程、その貯蔵量が増えていきます。

 魔力の回復速度も、貯蔵容量に比例するため、魔力の貯蔵量を増やすに越したことは無いんです。

 特に僕の場合は九つ星でその成長値は折り紙付きですから、ここで足踏みをするのが惜しいと言っているのでしょう。


「父上、筋肉を増やさず魔力量を増せないか試してみたいのです。少し僕に時間を頂けませんか?」


 少し上目遣いで父にお願いしてみます。

 精神年齢三十歳オーバーの僕ですが、ここで引くわけにはいきません。

 こんな可愛い息子の上目遣いのお願いに、否という親はいないでしょう。

 僕の将来のためにも、使えるものなら何でも使っていく所存です。


「む……仕方が無いか。ただし期限は二年だ。儂も剣の鍛錬を本格的に始めたのがその年だからな。それまでに良い方法が見つからなければ、筋肉魔法による鍛錬を始めてもらうぞ」


「はい!! ありがとう父上!!」


 ぱぁっと顔を明るくさせ、父に飛びつきます。

 そんな僕に、父は困った顔をしつつも頭を撫でてくれます。

 転生者であることを打ち明け、精神年齢的にも両親に近いことも打ち明けましたが、二人ともこうして僕が甘えることを望んでくれました。

 初めは恥ずかしさが強くためらっていましたが、今では当然の様に二人に甘えることが出来るようになりました。

 本当にありがたいことですね。


「アルト? お父さんにだけ甘えるなんてズルいわ。こっちにもいらっしゃい」


 唇を少しとがらせながら拗ねて見せる母。

 こうした仕草が全く違和感がない程若く見える彼女ですが、母親にそういうことをされると、反応に少し困ってしまいますね。 

 まぁ筋肉ダルマになるまでのリミットが伸びたことですし、母にもサービスしておきましょうか。


「ふふ、ありがとう。さて! ではアルトの九つ星を祝福して、今日は御馳走を用意してもらいましょう」


「あぁそうだな。部下も呼んで盛大に祝おうじゃないか」


 楽しそうに二人が今夜の打ち合わせを始めました。

 あまり大げさにされると流石に照れてしまいますが、王子である以上これも義務だと思って割り切りましょう。

 皆が喜んでくれるのは僕も嬉しいですしね。

 でも父上、部下の皆にも都合はあるでしょうから、無理強いはしないよう気を付けてくださいね。

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