第3話 両親

 適性検査を終え、自宅へと帰ってきました。

 自宅、つまりはお城ですね。

 僕が住んでいるのは、スカイフィード国の首都ピュアステイトにあるピュアステイト城です。

 外観のモチーフは洋風ですね。

 白塗りの白亜のお城です。

 中も大体洋風のつくりをしているんですが、所々に和の香りが残っています。

 そう、畳の和室もあるんですよ。

 和洋折衷ですね。なんなんでしょうね、この世界観。

 

 文明レベル的に言えば、中世だとか戦国時代だとかその辺なんでしょうが、魔法や魔道具のおかげでかなり便利な生活を送れています。

 まぁその辺りはまた機会があればお話ししましょう。


 服はみんな洋服です。

 和服もあるにはあるんですが、アレかっちり着ると動きにくいんですよね。

 ですのでみんな機能性重視の洋服です。

 生地は絹? です。

 魔獣のせいで蚕が絶滅寸前なので、代わりに魔獣からとれる生地を使用しています。

 手触りはほぼ絹なので絹で良いでしょう。

 やたら頑丈ではありますが。



 さて、早速両親に帰宅の挨拶と、適性検査の報告をしなければなりませんね。

 城に竜車(馬も絶滅危惧種です)で到着し、早速両親の下へと向かいましょう。

 ちょうど中庭でティータイムと洒落こんでいたみたいですね。

 普段は仕事で忙しそうにしていますが、僕の帰宅に合わせて休憩をとっていたのでしょう。


「父上、母上、只今帰りました」


 二人の前に歩いて行き、ぺこりと頭を下げて挨拶をします。


「おぉ、帰ったか! 適性検査の結果はどうだったのだ? その顔を見るに悪くはなかったのであろう、早く聞かせてくれ」


 この少しせっかちな男性が、僕の父、マリウス=スカイフィード。スカイフィード国の国王です。

 燃えるような赤髪に赤い瞳をもつ、逞しい方です。

 百八十センチの高身長に厚い筋肉を纏い、攻撃魔法の中でも特に火を得意とする、この国有数の戦士でもあります。

 この人の暑苦しさのせいもあり、僕は頭脳系スタイリッシュな王子を目指していたりもします。


「あらあなた? そんなにまくし立ててもアルトが困ってしまうだけですよ? アルト、おかえりなさい。まずはこちらにお座りなさいな。一緒に紅茶を飲んで一休みしましょう」


 そしてこちらの少しポヤポヤした女性が、僕の母、イリシアナ=スカイフィード。

 金髪碧眼で文句なしの美人さん。僕は母親似ですね。ありがとう母上。

 母上はレアな回復魔法の使い手で、この国の東に隣接するサリバー王国のお姫様でもあります。

 所謂政略結婚というやつですね。

 しかし、父も母もとても仲睦まじく、僕もこんな夫婦になれたらなと密かに憧れています。


「はい、母上。サリー、ありがとう」


「いえ」


 僕が椅子に座ると、サリーが無駄な所作なくお茶を用意してくれます。

 他のメイドたちもいますが、サリーは僕専用のメイドなので、僕の一番好きなお茶の入れ方を知っているんですよね。

 僕専用メイドって、中々に事件の香りがしますね。


「さて、そろそろいいだろう。アルトよ、早く教えてはくれまいか?」


「もう、あなたったら…… ふふ、ごめんなさいねアルト。この人ったらアルトが出かけてからずっとこんな感じでソワソワしていたのよ? 余程あなたの適性が気になって仕方が無かったのねぇ」


 なるほど、今日は一段と暑苦しいと思っていましたが、そう言うことだったんですね。

 父はせっかちというか、無駄が嫌いな性格らしく、それは内政でもよく表れています。

 でもまぁ悪いことではないですよね。無駄は省くに越したことはありません。


 これ以上父を焦らすのはかわいそうですから、伝えてしまいましょうか。

 少し憂鬱ではありますが。


「えぇっと、まず僕の適正ですが、支援魔法でした」


 一瞬だけ、時が止まりました。

 

「ま、まぁ素敵! マリウスの様に男らしい男性になれるわね! やったわね!」

 

 母上、フォローが下手過ぎます。

 やったわね、なんて普段使わないでしょうに。

 まぁ母が落ち込むのも仕方がありません。

 僕は将来、軍を指揮する立場になる訳です。

 つまり、近接戦闘よりも、後衛向きな攻撃魔法や回復魔法の方が必要とされることが多いのです。

 戦争で指揮官が直接戦闘する場合なんて、もう負け戦ですからね。


「うむ。流石はワシの息子だな。ピンポイントで筋肉魔法を引いてくるとは、羨ましいぞ!」


 父は普通に喜んでますね。

 この人は本来頭も良いはずなんですが、基本脳筋スタイルを好んでいます。

 父上、筋肉魔法じゃなくて、支援魔法です。


「アルト様、星の方も報告されてはいかがですか?」


 サリーが(尻尾だけ)嬉しそうにしながら僕に声を掛けてきます。


「う、うん。そうだね。えっと、父上、母上。僕、九つ星でした」


 瞬間、再び時が止まりました。

 先ほどの様に一瞬ではなく、数秒は空気が固まってしまったように感じました。

 後ろでサリーの尻尾の音だけがブンブン聞こえてきます。


 そして――



「き」



 き?



「きゃーーーーー!!! え? うそうそ! あなた、九つですって、九つ! きゃー、きゃーーーー!!」


 母が壊れました。

 もろ手を挙げて奇声を放ち、そして目を潤ませながら僕に抱き着いてきたのです。


「もぅ、さいっこう! 私の可愛いアルトが伝説の九つ星だなんて。はぁ~、私は今、生まれて一番幸せかもしれないわ。ううん、あなたが生まれて来てくれた瞬間も一番だったから、それと同じくらい幸せね。はぁ……アルト、生まれてきてくれて、本当にありがとう」


 そう言って、僕をぎゅっと抱きしめる母。

 母のぬくもりに包まれながら、なんだか自分が酷くホッとしてることに気が付きました。

 思っていた以上に、僕はこの人たちに落胆されることを恐れていたみたいです。

 二回目の生を受けた僕ですが、この人たちのことを、僕は心から愛しているのだなと改めて気が付きました。


「うむ。うむ。うむ」


 父も何度も頷きながら、ボロボロと涙をこぼしています。

 僕がこの人たちを愛しているように、両親も僕のことを愛してくれています。

 その事実が、僕の胸に広がり、目頭が熱くなってしまいました。

 僕はこの二人の間に生まれて、本当に幸せです。

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