ある地域で噂の都市伝説8
■6月9日 午後6時50分 森本浩樹
「今から帰る」と美奈にメールを送った直後に、美奈から電話が掛かってきた。
「もしもし? あなた?」
駅のホームにいるため、美奈の声が聞き取りにくい。電話の音量を上げる。
「どうした?」
「さっき、また無言電話が掛かってきたの。もしかしたら口裂け女かもしれない」
「やめろよ、口裂け女なんているわけないだろ」
「じゃあ、一体誰だっていうの?」
俺は言葉に詰まってしまった。おそらく佐来子だろうが、それを美奈に伝えるわけにはいかない。
「……私一人で待っているのが怖くて」
「風花は?」
「亜里沙ちゃんの家に遊びに行っているの。……心配だわ。迎えに行こうかしら」
「分かった。出来るだけ早く帰るから」
俺はそう言って電話を切り、ちょうど来た電車に乗った。
無言電話など陰湿な行為をするのは、やはり佐来子だろう。ひょっとしたら、最近噂になっている口裂け女も実は佐来子なのではないだろうか。あの女には路地裏のような暗い場所が似合う。
「皆殺してやる」など、出来もしない嘘を平気で吐くところが佐来子そっくりだ。
ん? なんだ……?
俺は何か違和感を感じ、もう一度その言葉をゆっくりと唱えた。背後から何か悪いものが覆いかぶさるような寒気がした。
ミ、ナ、コ、ロ、シ、テ、ヤ……ッ。美奈、殺してやる!
「皆殺してやる」ではなく、「美奈殺してやる」だ。佐来子だ。美奈が危ない。やはり佐来子だったのだ。
昨日「電話していない」と言ったのも、きっと嘘だったのだ。
俺は気づいてしまった。そうだ、嘘だったのだ。俺はたしかに昨日「電話したか?」と訊いた。それに対し、佐来子は「家の番号なんか知らない」と答えたのだ。
家の電話とは話していないにも関わらず、家の電話に掛かってきたことを佐来子は知っていた。無言電話も佐来子だったのだ。
急がないと。あいつなら本当に殺しかねない。美奈が危ない。
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