ライフスタイル


「乗馬は趣味じゃない、ライフスタイルだ」


 最近、そんな言葉を聞いた。

 ああ、なるほど! と思った。



 ここまで思いつくままに、好き勝手なことを書いてきた。


 過去の自分が可哀想すぎて、同じように苦しんでいる人がいたら、負けないで欲しい、私のように、いつかいい出会いがあって馬と仲良くなれるよ、と伝えたい。

 運動音痴で体も硬くて臆病で弱気、そんな私でも大丈夫だったよ、と。


 でも、きっと、これを読んだ人は思うだろう。


 あなたのように恵まれていない。

 馬に毎日通えるような暇もお金も家族の理解もない。

 30年も乗馬を続けた経験もない。未熟者で知識もない。

 私はあなたとは違う、あなたにはなれないの、と。


 その通り。

 私は恵まれていた。

 運がよかった。



 人は皆、自分の生活を犠牲にして、趣味を優先することはできない。

 それは許されないことだ。

 だが、ライフスタイルだ……といえば、ああ、そうだよな、と思う。

 生活そのもので、もう組み込まれていることだから。


 たいそうなことではない。

 犬を飼っている人が、毎日、犬の散歩に行くことを苦痛にしない、犬のせいで旅行に行けなかったり、レストランに入れないことを仕方がないと思う、また、犬を同伴できる施設を選ぶ、など、もう生活の一部になっているように。


 私も、犬の散歩に行くように乗馬に行って、犬を優先するように馬を優先して自分の生活を送っているだけだ。


 なるほどな。

 だから「ボケ防止の乗馬でしょ?」と言われて腹が立ち、「あなたみたいに時間があれば、金があれば」と言われて腹が立ったのだ。

 ボケようがボケまいが、時間があろうがなかろうが、金があろうがなかろうが、生活の一部だから、なんとか都合をつけている。

 金と暇があるから乗馬にきているわけではない。


「なんでだよ、なんでこんなに怖い思いをして、高い金払って、馬に乗らなきゃならないんだよ、ブツブツブツ……」


 と、言いながらも、まるで何かの使命に追われるように、馬を続けている。

 所詮は趣味の乗馬だけれど、趣味というには変だと思った。

 馬が生活に組み込まれている……。

 これが私のライフスタイルなのだ。




「サンデーライダーは馬を知ることはない」


 と言われてショックを受けた、という人のブログを読んだことがある。

 仕事をしながら大好きな乗馬をしていて、日曜日にしか馬に乗れない。そんな自分は馬を知れないのか? 酷いわ……って内容だった。


 そりゃひどいわ、やる気削がれるわ……と、思ったが、後で、その言葉が、とある有名なホースマンの言葉だとわかった。

 その人の半生を書いた本に、書かれていたのだ。


 週に1回、自分の暇な時に馬に乗っているような人は、本当の馬を知ることはない。毎日馬に接している人だけが、馬を理解できるようになる。

 確か、そんな内容だった。


 厳しいな……と思うけれど、シェルを持ってみると、ああ、なるほど、と思う。

 多分、週に1回、シェルに会いにくるだけなら、今の私とシェルはない。

 

 ただ、この言葉は、おそらく、暇なときだけ馬と付き合う、そんな心意気で馬と接して、馬と心が通じたと感じるのは、単なる思い込みだ、と言いたいのだと思った。

 暇な時だけやってきて、お気に入りの馬を「自分が一番わかっている」と豪語して、「自分が世界で一番愛馬心がある」と勘違いしている人は多い。

 でも、片手間では無理なのだ。

 ホースウィスパラーと言われる人から見れば、毎日、馬と顔を合わせようが、誰もが思い込みかも知れないが。


 365日、常に馬に寄り添わないと、馬は理解できない。

 それくらい馬と心を通わせるのは簡単なことじゃない。

 馬が生活の一部になっているくらい、情熱を傾けて、やっと入り口にたどり着けるのかな? が真実なのだ、と思う。



 もちろん、誰しもが馬を生活に組み込めるわけじゃない。

 馬に真剣に向き合える人は、本当に恵まれていると思う。


 美味しいところ取りの楽しい乗馬を追求するのも一つのスタイル。

 仕事のストレスを乗馬で癒すため、時に健康維持のため、友人との楽しい時間のため、乗馬後の楽しいランチのため、おしゃれのため、かっこいい趣味だから……。



 でも、本当に馬の魅力に取り憑かれた人は……。


 絶対に片手間では馬とは接することは出来ない。

 真剣に向き合わざるを得なくなる。


 命を扱うスポーツなのだ。

 片手間で楽しめるはずがない。

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