競技に出よう!

リベンジ!


 馬場は二課目か三課目B、小障害を飛べる程度で……。


 自馬を選ぶ時、どれくらいの能力が欲しいですか? と言われ、答えたのがこれ。


 馬場というのは「馬場馬術」のことで、決められた経路を回り、馬の運動の正確さや動きの良さを競う競技。

「ジジの星」と騒がれた法華津さんは、馬場馬術選手である。ただし、二課目・三課目Bというのは、入門も入門編。法華津さんのやっていることとは、比べ物にならない。現在は、A2・A3と呼び方が変わっている。

 障害は、文字通り障害物を飛び越える競技。小障害は、1m以下の障害を13個以内設置したコースを回ってくる競技。


 つまり……私は、あまり競技に出るとか、競技で上を目指すとか考えておらず、ポコポコと楽しく乗れて、それに似合う目標があれば……ってつもりで、シェルを持ったわけだ。


 正直、ここまでやってきて、どうにもならなかったわけだから、今後、頑張ったからといって、素晴らしく上達するとは思えない。

 下手くその私が、この先、勝つか負けるかで、やきもきしても、多分、楽しくないだろう。

 基本中の基本のところで、コツコツ頑張っていこうと思っていたのだ。



 それでも、シェルを持って半年で競技に出た。

 やはり、リベンジの気持ちがあったからだ。



 カイザーに走られた競技会以降、以前のクラブのインストラクターには、かつて持っていた絶対的な信頼を置けなくなってしまった。

 このクラブで知ったことは、目からウロコのことばかりで、今の私の礎になっている。そして、メディもバンビもマリーもいる。

 だが、仕事がなくなり、馬にかける予算が減ってしまった時、それでもどうにかしてこのクラブで馬に乗り続けたい、という熱意はなかった。


 皮肉なことだけれど……。

 このクラブで随分と過去の精神的な傷を癒してもらったけれど、自分が過去からすっかり立ち直るには、このクラブとの決別も必要だったのかも知れない。



 あの競技会で学んだこと。


 競技は、入場して敬礼した時にはもう半分は終わっている、ということ。


 しっかり練習していなかった。

 しっかり準備できなかった。

 もちろん、下乗りをしっかりしてもらい、本馬場に慣らして、下の課目に出ていたとしても、結果は同じだったかも知れない。

 でも、多分、私はあそこまで虚しい気持ちにはならなかったと思う。

 結果は結果として、受け止められたはずだ。


 カイザーは馬鹿馬じゃなかったし、私の運が悪かったのでもない。

 必然なのだ、と証明したい。


 そのためには、私だけの馬がいる。

 競技でベストを尽くしたいのなら、私だけの馬がいるのだ。


 それが……。

 運命の流れで、なぜか、自分の馬を持つことになっていた。


 これは、リベンジせよ! と神様が言っているに違いない。


 シェルを持ってすぐは、乗馬が続けられればそれでいい、と思っていた私が、シェルに慣れてくるにつれ、あの競技会のリベンジを考えるのは必然だった。




 シェルは、頑張ってくれた。


 初めての競技会は緊張し、私はジャケットのボタンすら出来ないほどで、シェルも本馬場を前に硬直して動かなくなった。

 それでも、しっかり経路を回って、良い成績ではなかったけれど、やり遂げてくれた。

 普段からやってきたことを、ちゃんとやってくれたのだ。

 私は大満足で、これでリベンジできた、もう競技はいい、十分だ……と思った。


 が。

 なんと、シェルが言った。


「ボクちんは、まだまだできる!」


 もちろん、私の勝手な解釈だろう。

 そう言ったような気がしたのは、私の願望のなせるわざなのかも知れない。

 でも、ふと、バンビで受けた3級のことを思い出した。


「馬は栄誉を知っている」


 シェルも、褒められ、拍手をもらって、嬉しかったのだ。


 シェルは、見栄えのするいい馬だ。

 それを、オーナーの気の弱さで無駄にしてはいけない。

 私は、目標を変えた。

 たとえ、ゆっくりでもいい。

 いけるとことまで、いってみよう! と。



 以来、シェルと私は、年3回のペースで、競技会に行っている。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る